第5章 近づく距離
朝靄がまだ残る馬舎に、
リヴァイは一人で立っていた。
イザベルとファーランには「先に行ってる」とだけ言って。
理由は単純――
最初の一歩を、誰にも見られたくなかった。
馬舎の扉が静かに開き、ユキノが出てきた。
彼女はいつもの作業エプロンをかけ、髪を後ろで束ねている。
手に小さなリンゴをいくつか持っていた。
ユキノはリヴァイの姿に気づき、一瞬目を丸くした。
「……リヴァイさん? こんなに早く……」
リヴァイは無言で視線を逸らし、低く言った。
「……教えろ」
ユキノは瞬きを繰り返し、それから――穏やかに微笑んだ。
「わかりました。よろしくお願いします」
彼女は一切驚いた様子を見せず、自然にリヴァイの隣に立った。
まるで、いつか来ることを知っていたかのように。
まず選んだ馬は、灰色の穏やかな牡馬――「ガスト」。
ユキノが言うには「力はあるけど性格が素直で、初心者に最適」だという。
ユキノはまず、リヴァイに馬の鼻先を触れさせた。
「まずは名前を呼んであげてください。声に出して」
リヴァイは眉を寄せたが、ユキノの静かな視線に押されて、小さく呟いた。
「……ガスト」
馬が耳をぴくりと動かし、鼻を近づけてきた。
リヴァイの手に、温かい息がかかる。
ユキノはそっとリヴァイの手を取って、馬の首筋を撫でさせた。
「こうやって、ゆっくり。馬は急な動きを怖がります。
リヴァイさんは……きっと、すぐにわかってくれると思います」
その言葉に、リヴァイの胸がわずかにざわついた。
(俺が……馬に?)