第5章 近づく距離
そのために、馬に乗れなければならない。
リヴァイはゆっくりと顔を上げ、二人の目をまっすぐ見た。
「……明日、行く」
イザベルが一瞬きょとんとして、それから飛び上がるように喜んだ。
「えっ!? ほんとに!? リヴァイ兄貴が馬術教わるの!? やったぁ!!」
ファーランが小さく笑った。
「決断早いな。さすがだ」
リヴァイは視線を逸らし、低く呟いた。
「……うるせぇ。早く壁外で、俺たちの力を見せつけるためだ」
それは、言い訳だった。
本当は――。
ユキノから教わることで、
あの温かさに、自分も触れることになる。
あいつの優しさを、近くで感じることになる。
それが怖い。
心がまた揺れるのが怖い。
だが、もう逃げられない。
イザベルとファーランが喜ぶ顔を見たら、
決心は固まった。
(あいつに……教わる)
人類最強の兵士が、壁育ちの医官見習いから馬術を学ぶ。
屈辱的だと思っていた。
だが、今は違う。
それも、自分を超えるための、一つの戦いだ。
リヴァイは立ち上がり、背を向けた。
「明日は朝早く行く。お前らも来い」
イザベルが「はーい!」と元気よく答え、ファーランが「了解」と頷く。
リヴァイは食堂を出て、夜の廊下を歩きながら、心の中で繰り返した。
(ユキノ・ベリスタ……
お前から、ちゃんと教わる。
そして、いつか――
全てでお前を、超える)
葛藤は、まだ胸の奥で燃えている。
だが今、その炎は、決心に変わった。
明日、馬舎で。
リヴァイは、初めてユキノの前に立って、
「教えろ」と言うだろう。
地下街の狼は、静かに、だが確実に――
新しい一歩を踏み出そうとしていた。