第5章 近づく距離
リヴァイはベッドの端に座り、窓から差し込む月明かりだけを頼りに、無言で拳を握ったり開いたりを繰り返していた。
部屋は静かで、ただ自分の息づかいだけが響く。
今日も馬舎に行った。
ファーランがあいつに教わりながら、馬の上で少しずつ落ち着きを取り戻していく姿を。
イザベルが昨日と同じように笑い、あいつが優しく声をかけている光景を。
すべてを、影から見ていた。
(……また、行っちまった)
自分でも呆れるほど、自然に足が馬舎に向かう。
「見に行くだけだ」と言い訳しながら。
「イザベルとファーランの様子を確認するだけだ」と自分を騙しながら。
だが、本当は――違う。
ユキノを見たい。
あの穏やかな横顔を。
馬を撫でる優しい手を。
仲間を笑顔にする、壁育ちの“温かさ”を。
それが、たまらなく腹立たしい。
(俺は……何を求めてんだ)
地下街で生きてきた自分は、
強さだけを信じてきた。
弱さは死を意味する。
優しさは、隙になる。
誰かを笑顔にする余裕なんて、持ったことがない。
イザベルを守るために、血を流した。
ファーランと策を練り、命を賭けた。
それで十分だったはずだ。