第5章 近づく距離
地下街では、ファーランはいつも冷静で、笑顔すら計算されたものだった。
だが今、馬の上で少し緊張しながらも、どこか楽しげな顔をしている。
それを作り出しているのは、またあいつだ。
リヴァイの胸が、再びざわつく。
(俺の大事な仲間を……次々、あいつが――)
苛立ちが湧き上がる。
だが、同時に。
ファーランが馬を歩かせ始め、
小さく笑った瞬間――
リヴァイの心の奥で、何かがまた揺れた。
(ファーランが……あんな顔、初めて見た)
地下街では、生き延びるために笑っていた。
壁の上に来て、少し余裕が生まれたとはいえ、
本物の、安らかな笑みではなかった。
あいつは、それを引き出している。
イザベルに続き、ファーランにも。
(……あいつは何なんだ)
リヴァイは拳を軽く握りしめた。
認めたくない。
あいつの優しさが、仲間を変えていることを。
自分の強さだけでは、与えられなかったものを、
あいつが与えていることを。
(俺は……守ることはできた。
でも、あいつみたいに――
変えることは、できなかった)
葛藤が、胸の奥でますます深くなる。
明日も、ここに来るだろう。
ファーランを見に。
イザベルを見に。
そして――ユキノを見に。
認めたくない気持ちを、殺すために。
リヴァイは静かに背を向け、馬舎を後にした。
夕陽が、馬舎を柔らかく染めていた。
ファーランはまだ馬の上で、
あいつの教えに耳を傾けている。
少しずつ、馬との距離が縮まっていく。
その光景を、リヴァイはもう見ない。
見たら、また心が揺れるから。
地下街の狼は、静かに、だが確実に――
自分の内側で戦い始めていた。