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翼の約束

第5章 近づく距離



馬舎の柵の外で、イザベルは少しおどおどしながら立っていた。
地下街で育った彼女にとって、馬は初めて見る“巨大な生き物”だった。
壁の下で見たこともない大きさ、匂い、鼻息――すべてが新鮮で、少し怖い。

「うわぁ……ほんとにでっかいね……これ、乗るの?」

そんなイザベルを見ていたユキノが、穏やかに笑って近づいてきた。

「大丈夫だよ、イザベルちゃん。この子はとてもおとなしいから。まずは触ってみようか」

ユキノはいつものようにエプロンをかけ、髪を後ろで束ねている。
彼女が選んだのは、茶色の穏やかな牝馬――名前は「ルナ」。
王都時代から馴染みのある性格の馬に似ていて、初心者にぴったりだった。

ユキノはまず自分の手でルナの鼻先を優しく撫で、耳元で小さく囁いた。
馬が安心したように鼻をすり寄せてくる。

「ほら、こうやって掌を上にして、そっと近づけて。急に手を伸ばすとびっくりしちゃうから」

イザベルは恐る恐る真似をする。
最初は指先が震えていたが、ルナが静かに鼻を近づけてきた瞬間――

「わっ……! くすぐったい! でも、温かい……!」

イザベルの顔がぱっと明るくなった。

ユキノは微笑みながら、次にリンゴを取り出した。

「次はこれをあげてみて。掌を平らにして、歯で取られないようにね」

イザベルがリンゴを差し出すと、ルナが優しく唇でついばむように食べた。
イザベルは目を丸くして、思わず笑い声を上げた。

「すっごい! ユキノお姉さん、この子、私のこと好きになってくれたみたい!」

「うん、馬は正直だから。怖がってないってわかると、すぐに懐いてくれるよ」

ユキノはイザベルの隣に立ち、ゆっくりと鞍の説明を始めた。

「まずは地面から慣れよう。乗る前に、馬の背中を撫でて、身体全体に触れてあげて。
 馬は自分が信頼されてるって感じると、安心して乗せてくれるんだ」

イザベルは言われた通りにやってみる。
最初はぎこちなかったが、ユキノが優しく手を添えて導くと、だんだん自然になっていった。

「次は鐙に足をかけて、ゆっくり体重を移すよ。私が支えてるから、怖くないよ」
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