第5章 近づく距離
午後の陽光が馬舎の屋根を照らす中、エルヴィンの私室でリヴァイは短く告げられた。
「壁外調査に行くなら馬に乗れないと無理だ。ユキノ・ベリスタから馬術を教われ。彼女は王都育ちで、馬の扱いが上手い」
リヴァイは即答した。
「……断る」
エルヴィンの青い瞳がわずかに細められたが、それ以上は何も言わなかった。 ただ、いつものように静かに微笑んだだけだ。
(あの野郎……また勝手に決めた)
リヴァイは苛立ちを胸に馬舎へ向かった。
理由は単純――馬を見に行ったわけではない。
ただ、ユキノがそこにいるという情報を、
ファーランから耳にしたからだ。
「見に行くだけだ」と自分に言い訳しながら。
馬舎に着くと、予想通りユキノがいた。
彼女は一頭の黒馬の前に立ち、静かに鼻先を撫でていた。
制服の上に作業エプロンをかけ、長い髪を後ろで束ねている。
いつもより少し無防備で、穏やかな表情だ。
馬はユキノの手に鼻をすり寄せ、満足げに鼻息を漏らしている。
明らかに信頼しきっている様子だった。
ユキノは小さなリンゴを取り出し、掌に乗せて差し出した。
馬が優しく唇でついばむように食べる。
その仕草が、驚くほど自然で優しかった。
「いい子だね。今日も頑張ろう」
彼女の声は、普段の医務室や訓練場で聞くものより、ずっと柔らかかった。
リヴァイは馬舎の入り口の影に立ち、無言でその光景を見ていた。
(……壁育ちのガキが、馬まで懐かせてやがる)
苛立ちが、いつものように胸の奥で湧き上がるはずだった。
だが――。