第3章 苛立ち
午後の陽光が強く照りつける訓練場。
今日は立体機動ではなく、近接格闘術の訓練日だった。新兵たちは汗だくで組み合い、倒し方や関節技を繰り返している。
リヴァイはいつものように、上官の動きを一瞬で読み、軽く受け流して反撃を決めた。
相手の上官が地面に叩きつけられる音が響く。
周囲の視線が集まるが、リヴァイは無表情のまま、次の相手を待つだけ。
少し離れたところで、イザベルがハンジと一緒に訓練に参加していた。
イザベルは地下街育ちの身のこなしで、意外に健闘している。
ハンジは楽しそうにイザベルを相手にしながら、時折大げさに転がったりして場を和ませていた。
休憩の合間、イザベルが息を弾ませながらハンジに尋ねた。
「ねぇねぇ、ハンジお姉さん! ユキノお姉さんは立体機動以外は訓練しないの?
今日みたいな格闘とか、全然見ないよね?」
ハンジは水筒を飲みながら、にこにこと答えた。
「うん、彼女は医官見習いだからね。今は医療の勉強に専念してる時間なんだよ。
解剖学とか、応急処置の実技とか、負傷兵の治療シミュレーションとか……
毎日図書室か医務室にこもってるよ。戦場で人を救うのが彼女の役目だから、優先順位が違うんだ」
イザベルが少し首を傾げる。
「でも、戦場って立体機動だけじゃなくて、地面で戦うこともあるよね?
ユキノお姉さん、あんなに飛べるのに、戦わないの?」
ハンジは肩をすくめて笑った。
「まあ、ユキノちゃんは『治す専門』って割り切ってるからね。
戦うのはリヴァイたちに任せて、自分は後方で命を繋ぐってスタンスだよ。
賢い選択だと思うけどなあ」
その会話を、リヴァイは数メートル離れた場所で、はっきりと耳にしていた。
表情は変わらない。
だが、心の中が静かに煮えたぎり始めた。
(……そんなんじゃ、死ぬだけだろ)