第3章 苛立ち
イザベルは無邪気に続ける。
「ハンジお姉さんも言ってたよ。『ユキノちゃんの機動は芸術的だって。リヴァイと並んだら、調査兵団最強のツートップになるかも!』って!
ねえ、リヴァイ兄貴もそう思うでしょ?」
リヴァイは、ゆっくりと目を閉じた。
胸の奥で、黒い炎が音を立てて燃え上がる。
(最強の……ツートップ?)
笑わせるな。
俺は這いずり回って、血と泥にまみれて這い上がってきた。
あいつは、綺麗な庭で、母の形見を揺らしながら、優雅に舞っていただけだ。
それで、同じ場所に立てるというのか。
イザベルが首を傾げる。
「リヴァイ兄貴? どうしたの、黙っちゃって」
リヴァイは静かに目を開け、低い声で言った。
「……お前、あいつらと仲良くしすぎだ」
イザベルが目を丸くする。
「え? でも、みんな優しいし――」
「壁育ちの連中と、俺たちは違う」
声に、はっきりとした棘が込められていた。
イザベルが少し怯んだように口をつぐむ。
リヴァイは立ち上がり、月明かりに背を向けた。
「……もう寝ろ。明日も訓練だ」
背を向けたまま、歩き去る。
イザベルが小さく呟く。
「リヴァイ兄貴……なんか、怒ってる?」
リヴァイは答えなかった。
ただ、心の中で繰り返す。
(あいつが……ユキノが。
母の形見だ? 優雅に練習した?
それで俺と同じ空を飛ぶつもりか)
苛立ちは、もう怒りに近かった。
だが、同時に――。
(だったら、俺はもっと上に行く。
あいつがどんなに綺麗に飛ぼうと、俺はあいつを置き去りにする)
それが、リヴァイの決意だった。
月明かりの下、地下街の狼は静かに牙を研いでいる。
ユキノ・ベリスタの存在が、彼の闘志をさらに鋭く、深く、燃やしていくことを、
まだ誰も知らない。