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翼の約束

第3章 苛立ち



月明かりだけが薄く照らす兵舎の裏手。
リヴァイは壁に背を預け、静かに息を吐いていた。入団から一ヶ月。まだこの場所の空気にも、匂いにも、慣れていない。

そこへ、軽やかな足音が近づいてきた。

「リヴァイ兄貴! いたいた!」

イザベルだった。
頰が少し赤く、目がいつもより輝いている。
明らかに興奮している。

リヴァイは無言で彼女を見た。
「……何だ、こんな時間に」

イザベルはへらっと笑って、リヴァイの隣にぴょんと座り込んだ。

「今日は女子寮でユキノお姉さんとハンジお姉さんと一緒に過ごしてたんだよ! すっごく楽しかった!」

その名を聞いた瞬間、リヴァイの眉がわずかに動いた。

イザベルは気づかず、ぺらぺらと続ける。

「ユキノお姉さん、ほんとに優しくて綺麗でさあ! お風呂上がりに髪を乾かしながら色々話してくれたの。王都の家のこととか、お母さんが昔憲兵団だった話とか……それで、あの青いイヤリングはお母さんの形見なんだって!大事に大事にずっとつけてるんだってさ。かわいいよね~!」

リヴァイの拳に力がこもる。

イザベルはさらに熱を帯びて語る。

「それに、立体機動の練習も小さい頃からお母さんに教えてもらってたんだって!
お屋敷の庭に専用のポール立てて、毎日何時間も練習してたんだって。 ……だからあんなに上手いんだね!私たちみたいに命賭けてないのに、あんなに飛べるなんてすごいよね!」

その一言で、リヴァイの胸の奥にあった苛立ちが、はっきりと形を成した。

(命賭けてないのに……か)

地下街で装置を盗み、ガスを節約し、
刃一本で何十人も切り伏せてきた日々。
失敗したら即死。
一回のミスで、イザベルやファーランを失うかもしれない恐怖。

それに比べて――。

屋敷の庭で、専用のポールで、のんびりと。

ただの「お嬢様の遊び」みたいに。

なのに、同じ高さまで来ている。
いや、技術の一部では上回っているようにさえ見える。
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