• テキストサイズ

天国スカウト断って、地獄で改革始めます!

第4章 黒の世界を選びました。


白の世界の見学を終えた私は、ふわふわの雲の絨毯を踏みながら、ふっとため息をついた。
空調は完璧、食事は豪華、空は澄み渡り、誰もが微笑んでいる。
でも、どこか“現実感”がないように見えた。
空気が綺麗すぎて、逆に息苦しい。
自分が生活をする『実感』が感じられなかった。

「どうでしたか?仁菜さん。これが“永遠の安らぎ”です」

セロスが私の横顔を覗き込みながら、柔らかく問いかける。

「……うん、綺麗。でも、なんか……現実味がない」

私はそう言って、彼の手をそっと振りほどいた。

「ここにいたら、私、自分が自分じゃなくなりそう」

セロスの笑顔が、ほんの一瞬だけ引きつった。

「それは……慣れの問題かと。いずれ馴染みますよ」

「馴染みたくないかも」

私はそう言って、背を向けた。

黒の世界の見学は、空気が重く、建物は古びていて、職員たちは黙々と働いていた。
でも、そこには‪”‬生活感”があった。
誰かが掃除をしていたり、誰かが書類を運んでいたり。
地味だけど、確かに“人生”があった。

アゼルは私の隣で、無言で歩いていた。
案内というより、ただ“隣にいる”という感じだった。

「ここが、黒の世界の庁舎。地獄って言われてるけど、実際は“再出発の準備室”みたいなもんだ。働いて、反省して、次に進む。シンプルだ」

「……なんか、こっちの方が落ち着く」

「そうか」

アゼルはそれだけ言って、少しだけ口元を緩めた。

見学を終えた私は、二人の前に立った。

「決めました。私は……黒の世界に行きます」

セロスの顔が、ピクリと動いた。

「えっ……本当に?いや、ちょっと待ってください仁菜さん。白の世界には、もっと素敵な施設もありますし、希望すれば記憶の調整も——」

「記憶の調整って、つまり“忘れさせる”ってことですよね?それって、私が私じゃなくなるってことじゃないですか」

セロスは言葉に詰まり、タブレットを見下ろした。

「でも……黒の世界は、苦しいですよ?労働もあるし、自由も少ない。転生までの時間も長い。天国の方が、ずっと楽です」

「楽なのが、幸せとは限らないでしょ?」

私はそう言って、アゼルの方へ歩み寄った。

「私は、ちゃんと生きてた頃みたいに、働いて、悩んで、でも誰かと関わっていたい。それが、私にとっての“リアル”だから」
/ 25ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp