第3章 地獄の大鍋無双しました。
反射的にアゼルが手を伸ばす。だが、勢い余って二人とも鍋の底に倒れ込み——
ドンッ。
ん?何か胸が重たい?
私が顔を上げると、アゼルが私の胸に顔を埋めるようにして、私を抱きしめるように二人で鍋の底に埋もれていた。
「っ……!」
仁菜は一瞬固まり、アゼルも動けず、鍋の湯気が二人を包む。
「ちょ、ちょっと!?アゼル!私の胸に頭乗ってる!てか腕離して!私たち鍋底で転んでる!」
アゼルは慌てて体を起こし、顔を真っ赤にして背を向けた。
「す、すまん……!救助のつもりだった……!」
「いや、わかってるけど!わかってるけど!!」
周囲の受刑者たちは、鍋のおたまを持ったまま固まっていた。
「……今の、見た?」
「案内人、女の子に抱きついて埋まってた……」
仁菜は顔を赤くしながら、鍋の中身をかき混ぜる。
「……もう、いいから!鍋洗うよ!アゼル、スポンジ持ってきて!」
「……ああ」
アゼルは無言でスポンジと洗剤を差し出しながら、目を合わせようとしない。耳まで真っ赤だった。
その後、仁菜は受刑者たちと協力して鍋をすべて洗い上げ、衛生的な調理場を即席で設置。新たな「美味しい闇鍋」を作り上げた。
「さあ、召し上がれ!」
恐る恐る口にした受刑者たちは、目を見開いた。
「……うまい……!」
「これが……地獄の味……?」
「涙が出る……」
「これなら、明日も“刑罰”がんばれる……!」
仁菜は腕を組み、満足げに頷いた。
「ふふん、これが“地獄の改善”ってやつよ!」
アゼルはその様子を見つめながら、ふと呟いた。
「……やっぱり、君が来てから、変わったな。ここも、俺も」
仁菜は振り返り、少し照れながら笑った。
「じゃあ、次はどこを掃除しようか。地獄、まだまだ汚れてるよ?」
アゼルは静かに頷いた。
「君がやりたいようにやればいい。俺はそれをできるだけサポートするよ」
そう言って、アゼルは苦笑するように喉の奥で笑った。