第3章 地獄の大鍋無双しました。
庁舎の掃除が終わり、空気がほんの少しだけ澄んだ気がした。私はふと窓の外に目をやる。そこには、いくつもの巨大な鍋が設置されており、ブクブクと不穏な音を立てながら、鼻をつくような悪臭を放っていた。
「なに……あれ?」
黒い液体がぐつぐつと煮え立つ大鍋が、ずらりと並んでいる。
鍋の表面には、いつ洗ったのか分からないような焦げやヌメリがこびりつき、窓越しにもその不潔さがはっきりと見て取れた。
その鍋の前には人々が列をなし、無言で椀に中身をよそい、近くの地面に腰を下ろしては、陰鬱な顔つきで黙々とその具材を口に運んでいた。
「闇鍋地獄だよ」
「……何それ」
「地獄の刑罰の一環で、闇鍋の中をすくって、具材は全部食べきらなきゃいけない刑罰」
「それただの罰ゲームじゃん!」
私がツッコむと、アゼルは真面目な顔で言った。
「いや、これも黒の世界の“仕事”で“刑罰”。軽犯罪者と認定された者がやる“業務”だ」
「それにしてもすごい匂い……あの鍋、いつ洗ったの?鍋は毎回作り替えてるの?」
「詳しくは知らんが……鍋は……いつ洗ったかな。中身は延々継ぎ足しだ」
私は絶句した。
「そんな不衛生なもの口にしたら、病気になるじゃない!鍋は毎日洗って、作り替えなきゃ!」
そう言いながら、ふと私は思い出す。
「……って、そういえば、さっき軽くやけどしたけど……亡者って、病気とか怪我とかするの?」
私の問いに、アゼルは静かに頷いた。
「亡者といえど、地獄では肉体を持つ。病にもなる。罰とは、苦しみを伴うものだからな」
「じゃあ、余計に不衛生なものを食べさせて、体壊されたら困るじゃない!それってもう刑罰じゃなくて人権侵害……いや、亡者侵害よ!」
私は勢いよく言い放つ。
「ちゃんと清潔な道具で、栄養面も考慮して、まともなものを食べさせなきゃ!」
アゼルは少し困ったように眉を寄せた。
「でも、それじゃ“仕事”にならないんじゃないか?“刑罰”の意味もなくなるし……」
「鍋を毎日洗って、作り替えるのも“仕事”のうちでしょ?それに、体を壊したら“仕事”にも“刑罰”にもならないじゃない。本末転倒よ!」
私の正論に、アゼルは言葉を返さず、黙って鍋の方を見つめた。
そして私は、鍋の前に立った。