第7章 地獄の食卓私が変えます!
「……あの日の味だ。父に、もう一度食べてもらいたかった」
厨房が静まり返る。亡者たちはその涙を見つめながら、自分の鍋に向き直った。
アゼルが私の隣に立ち、低く呟く。
「罪の味が、記憶の味に変わった……君の料理は、地獄に灯りをともすんだな」
私は鍋の火を少し弱めながら、笑った。
「灯りっていうより、湯気かな。罪を煮詰めるんじゃなくて、温め直すの。冷えた心に、もう一度火を入れるために」
味噌汁の湯気が、静かに立ち上る。亡者の頬を伝う涙は、鍋の縁に落ちることなく、彼の胸元で止まった。
厨房の空気は、焦げと腐敗の匂いから、出汁と焼き魚の香ばしさへと変わっていた。亡者たちはそれぞれの記憶に基づいた献立を整え、自分で作った物を苦痛を浮かべて一人で食べるのではなく、互いに料理を振る舞い始めていた。
「これは……母が作ってくれた卵焼きに似てる」
「俺のは、妻が最後に作ってくれたカレー。……甘口だったんだ」
食卓はなかったはずの地獄に、鍋を囲む輪が生まれていた。亡者たちは、罪の記憶を料理に込め、互いに差し出すことで、少しずつ心を開いていく。
私は鍋の火を止め、布巾で取っ手を拭きながら、静かに呟いた。
「罪って、食べられるんだね。苦いままじゃなくて、整えて、誰かに渡せる形にすれば」
アゼルは私の隣で腕を組み、厨房の様子を見渡していた。
「君が来てから、地獄に味がついた。……それも、優しい味だ」
私は少し照れながら、鍋の蓋を閉じた。
「次はどこを温めようか。地獄、まだまだ冷えてるよ」
アゼルは笑みを浮かべ、扉の向こうを指差した。
「次は、収納地獄かな。罪を詰め込んで、溢れさせる場所だ」
私は頷き、エプロンの紐をほどいた。
「よし、次は整理整頓。罪も記憶も、しまい方が大事だからね」
料理地獄の厨房に、静かな風が吹いた。湯気の向こうに、少しだけ光が差し込んでいた。
──料理地獄、改善完了。
仁菜は、次なる改革の地へと歩き出す。