第1章 出会いは死んでから
セロスは、まだあたしを諦めては無いらしく、『黒の世界』まで着いてきて、どうにか私の意向を覆そうと、耳元で囁いてくる。
「ラベンダーの香りで毎日癒されるんや!」
「ラベンダーより、生活感のある味噌汁の匂いの方が落ち着くんだけど」
私がそう言うと、アゼルが一瞬だけ目を見開いた。赤い瞳が、ほんの少し柔らかく揺れた気がした。
「……味噌汁、好きだ」
「え、急にどうしたの?共感ポイント?」
セロスが「はぁぁぁぁ!?」と叫び、額を押さえた。
「なんで味噌汁で心通わせてんねん!こっちは天使の歌声で毎朝起こしてくれる世界やぞ!?味噌汁て!庶民か!」
「庶民で結構。私は、ちゃんとリアリティある、規則正しい堅実な生活できる場所がいいの」
私がそう言うと、アゼルは小さく頷いた。
「……なら、ここを整える。案内人として、最低限の環境は用意する」
その言葉に、私は思わず笑ってしまった。
「じゃあまず、掃除機と雑巾と、あと消臭剤用意してね。掃除するから。あと、書類はジャンル別に分けて。それくらいはできるでしょ?」
アゼルは少しだけ口元を緩めた。セロスはその様子を見て、肩を落としながら呟いた。
「なんでや……なんでブラック企業の案内人がデレてんねん……」
私は窓から差し込む風を感じながら、心の中で決めた。
——この世界、ちょっと手間はかかるけど、その分伸びしろがある。この『黒の世界』を少しでもみんなが住みやすい場所に変えてみせる。
久々に闘志が湧いた。