第1章 出会いは死んでから
「何!?この雑然とした空間は」
扉を開けると、そこは書類が山積みにされたオフィスだった。
「埃っぽい!汚い!タバコ臭い!換気してないんじゃない?」
私は部屋の奥に進むと、突き当たりにある窓を全開で開けた。
私の後ろには申し訳無さそうに立つ黒髪に黒いスーツを着て赤いネクタイを締めて、スーツの襟に何かの模様のようなピンバッジを付けた男性ロキスと
「こんな場所の何処がえぇねん。こっちは綺麗・清潔・整理整頓しっかりされた上に空調バッチリな世界やねんぞ!こんなブラック企業選ぶ気が知れんわ!」
と、ブツブツ呟いてると、言動に似合わない金髪碧眼で、白いスーツ姿に、胸元に羽飾りを付けた男性セロスが文句を言っていた。
私は窓を開け放った勢いのまま、振り返って黒髪の男性――アゼルを睨んだ。
「ねぇ、案内人って部屋の掃除もしないの?この書類、何年前のよ?あとこの灰皿、誰の?」
アゼルは視線を逸らしながら、低い声でぼそりと答えた。
「……俺のじゃない。前任者のだと思う。触ると崩れるから、放置してる」
「放置って言葉、便利だよねぇ〜〜〜!」
私は手近な書類の山をどうにかしようと、書類の束に指先が触れた瞬間――案の定、バサッと崩れた。埃が舞い、セロスが咳き込む。
「ほら見てみぃ!空気悪すぎてワイの美声が死ぬわ!仁菜ちゃん、こっちの世界にしとき。”白の世界”は空調も香りも完璧やで。」
ここは『あの世』である『黒の世界』下界で言うところの『地獄』である。
対してセロスの言う『白の世界』は『天国』を指していた。
交通事故に遭い仮死者状態で、この世界の境界線で迷い込んだ私は、二人にどちらの世界に行くか勧誘されたが、仮死者であると分かった私は死後どうするか決めるために二つの世界を『見学』させてもらった。
最初『白の世界』を見たが、ふわふわな雲に彩られ、優雅に過ごす人々を見て、落ち着かなかったというか、居心地が悪かったというか……とにかく、現実味を感じなくて、死後の世界でも『労働や苦役を強いられる黒の世界』に落ち着くことにした。
『黒の世界』で先ず感じたことは、劣悪な環境である。
仮にも『地獄』に相当する世界なので、過ごしやすい方がおかしいのかもしれないが、この環境はあまりにも悪すぎる。