第6章 地獄でアイロンがけ極めます!
「これじゃ、罪を整えるどころか、余計な罪作りだよ…」
私はぽつりと呟き、アイロンの温度調整ダイヤルに手を伸ばした。案の定、壊れていた。最大温度で固定され、蒸気の噴出口も詰まっている。
「まずは温度を下げて、蒸気を澄ませる。焦がさず、丁寧に。罪も衣も、ふわっと仕上げるのが理想でしょ」
工具箱を開き、私は手慣れた動きでアイロンの内部を分解し始めた。アゼルが驚いたように目を見開く。
「君……また慣れてるな」
「うん。昔、家族の制服とか、よくアイロンかけてた。父のシャツしわだらけでさ。母親に怒られたくないから、必死で伸ばしてた」
私は笑いながら、蒸気の噴出口に詰まった黒い塊を取り除いた。すると、アイロンからふわりと澄んだ蒸気が立ち上る。
亡者たちがざわつき始める。
「……蒸気が、白い」
「焦げない……?」
「これなら、ちゃんと整えられるかも……」
私はアイロン台に衣を広げ、ゆっくりとアイロンを滑らせた。焦げ跡の隣に、まっすぐな布地が現れる。
「罪って、焼き捨てるんじゃなくて、整えて残すものだと思う。形を整えることで、心も整う。もともとそういう儀式のはずだよ。さっきのやり方じゃ、罪に向き合うどころか、衣類をダメにして、罪を重ねる事になっちゃうよ」
アゼルはその言葉に、静かに頷いた。
「君のやり方は、罪を否定しない。でも、未来を肯定してる」
私は少し照れながら、アイロンをもう一度滑らせた。
「じゃあ、次は亡者たちにもアイロンを渡して、整える作業をしてもらおう。自分の罪を、自分の手で整えるの」
亡者たちは戸惑いながらも、アイロンを手に取り、衣を広げ始めた。焦げた布地に、少しずつまっすぐな線が生まれていく。
そのとき、一人の亡者がぽつりと呟いた。
「これは……俺が母に暴言を吐いた日の服だ。焦げ跡は、あの日の記憶だ」
私はその衣をそっと手に取り、焦げ跡の周囲を丁寧にアイロンがけした。
「焦げ跡は消えない。でも、整えることはできる。それが、償いの第一歩だよ」
彼の手元のアイロンが、ゆっくりと動き始める。
作業場の空気が変わっていく。焦げた蒸気の代わりに、静かな熱と香りが漂い始める。亡者たちは、整えられた衣を胸に抱きしめながら、静かに自分の罪と向き合っていた。