第6章 地獄でアイロンがけ極めます!
洗濯地獄の改革を終えた私は、洗濯場の隅に立ち、澄んだ水面を見つめながら深呼吸をした。空気は少しだけ澄み、亡者たちの表情にもわずかな柔らかさが戻っていた。
その亡者達の落ち着いた顔を見ながら、私はアゼルの方へ振り返った。
「……次はどこに手を入れようか?」
改革の手応えに満足しつつ、私は次なる改善の地を探す。アゼルは小さく笑い、少しだけ考える素振りを見せた。
「洗濯地獄の次は……アイロン地獄かな」
「アイロン地獄?」
私は首を傾げた。洗濯の次にアイロンという流れは家事としては自然だが、地獄での“アイロン”とは一体どんな刑罰という名の『労働』になるのか?
アゼルに案内されて辿り着いたその場所は、岩壁に囲まれた蒸気のこもる作業場だった。亡者たちが黙々と、巨大なアイロンを手に、しわくちゃの衣を押し続けている。
だがその様子は、どこか異様だった。
アイロンは高温すぎて、衣は焦げ、蒸気は濁り、亡者たちの腕には火傷の痕が浮かんでいた。押しても押しても、しわは伸びず、むしろ焦げ跡が増えていく。
「……これが、アイロン地獄?」
その壮絶な光景に、私は目を疑った。
アゼルは静かに頷いた。
「罪の象徴である“歪んだ衣”を、熱で伸ばす儀式だ。歪みを正すことで、罪を整える……そういう意味合いだな」
私は焦げた衣を見つめながら、眉頭を寄せた。
「でもこれ、罪を整えるどころか、焼き増してるだけじゃない。火傷して、焦げて、形も崩れて……これじゃ、罪と向き合うどころか、罪に押し潰されてるよ」
アゼルは言葉を詰まらせ、黙ってアイロンの蒸気を見つめた。
私は一歩、作業場の中へ踏み出す。
「よし、じゃあまずは温度調整から。罪を整えるなら、焦がさず、丁寧に。ふわっと仕上げて、心も軽くしてあげなきゃね」
私は作業場の中央に置かれたアイロン台に近づき、焦げた衣をそっと持ち上げた。布地は硬く、焼け跡が黒く広がっている。蒸気は濁り、空気は重く、亡者たちの表情もどこか諦めに満ちていた。
「これじゃ、罪を整えるどころか、余計な罪作りだよ…」
私はぽつりと呟き、アイロンの温度調整ダイヤルに手を伸ばした。案の定、壊れていた。最大温度で固定され、蒸気の噴出口も詰まっている。