第5章 地獄の洗濯場を改革します!
「こんなに澄んだ水……地獄に来てから初めて見た」
私は、洗濯機のハンドルを回しながら、静かに言った。
「罪を洗うって、ただ苦しむだけじゃない。自分の手で汚れを落として、自分の罪と向き合うこと。それが、本当の“償い”なんじゃないかな」
亡者たちは黙って頷き、再び衣を手に取った。水音が、静かに洗濯場に響く。
アゼルは少し離れた場所で腕を組み、私の背中を見つめていた。
私はもう一度、洗濯桶の水面を見つめた。そこには、はっきりと自分の顔が映っていた。
血も泥も、もうそこにはなかった。澄んだ水が、私の目をまっすぐに映していた。
その瞬間、洗濯場の奥から、乾燥機の試運転音が響いた。アゼルが工具を片手に、配線を調整している。
「……動いた。風も熱も、ちょうどいい」
彼がそう呟くと、亡者たちが洗い終えた衣を手に、乾燥機の前に並び始めた。
機械の中で、衣がふわりと舞い、回転するたびに、柔らかな蒸気が立ち上る。
「……あったかい」
「ふわふわだ……」
「これが……地獄の仕上がり……?」
亡者たちの顔に、ほんの少しだけ、安堵の色が浮かぶ。
誰かが、乾いた衣を胸に抱きしめて、ぽつりと呟いた。
「……罪を洗って、乾かして、抱きしめる。こんな地獄、初めてだ」
私はその言葉に、静かに微笑んだ。
「そう。罪って、ただ罰するだけじゃなくて、向き合って、受け止めて、乗り越えるものだと思う」
アゼルが私の隣に立ち、洗濯場を見渡す。
「……君が来てから、地獄が少しずつ変わってる。空気も、亡者も、俺も」
私は彼の言葉に、少しだけ照れながら頷いた。
「じゃあ、次はどこを洗おうか。地獄、まだまだ汚れてるよ?」
アゼルは腕を組み、空を見上げた。曇っていた空は、ほんの少しだけ、光を通していた。
「君がやりたいようにやればいい。俺は、それをできるだけ支える」
その言葉に、私は力強く頷いた。
洗濯場の風が、ふわりと衣を揺らす。
地獄の空気が、ほんの少しだけ、澄んだ気がした。
──洗濯地獄、改善完了。
次なる改革の地へ、仁菜は歩き出だす。