第87章 侵掠如火(しんりゃくじょか)
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やった!カダマシだ!!
森からあがった獣のような咆哮は、クチナワのいるホテルにも伝わってきた。さっきの爆音はカダマシと狐男の交戦の音だったのだ。
よし、カダマシがいるなら、俺がやることはひとつだ。カダマシに合流して、狐男を殺し、女を奪還する。それに、カダマシと狐男がいるということは、どちらかが死返玉を持っているということだ。それを回収すれば、俺達の勝ち確定だ。
「野衾(のぶすま)!」
クチナワの背中に黒い影のようなものが湧き上がる。それは巨大なムササビのような被膜を持った動物の形をしていた。ただし、その姿は通常のムササビの何倍もあり、また、目がランランと輝き、口元には鋭い牙があった。
妖怪、野衾。空を飛び、人を食らう獣の姿をした妖魅である。
呼び出された野衾はクチナワを器用に腕で抱えると、ふわりと宙空に浮かび上がっていった。その視線の先には、丁度、森の中から盛り上がるようにして現れた巨大なカダマシの姿があった。
「お!カダマシの『だいだらぼっち』だな?一気に勝負を決めようってことかい」
ニヤニヤと笑っているクチナワを抱え、夜の闇を滑るように野衾が飛んでいった。
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「ダリ!」
一瞬の出来事だった。カダマシが何事か呟くと、その姿が一瞬のうちに膨れ上がった。あのとき、私と麻衣ちゃんを攫った大きな手は、こいつが巨大化したときのものだったのかとわかった。
ダリがドン、と私のことを突き飛ばしたかと思うと、あっという間に、巨大になったカダマシの手に掴まれる。
「紳士だねぇ・・・女を守るってか?
じゃあ、そのままこの手の中で骨がバキバキになって死ぬ姿を見せてやるだな
お前の死体の前で、この女をたっぷり犯してやるぜ」
30メートルほどの大きさになったカダマシは、地の底に響くような恐ろしい声を放った。確かに言うように、ダリは彼の手の中にすっぽりと掴まれて、身動きが取れない状況に見える。
大分妖力も消耗している・・・あんなの倒せるの!?
そもそも、神宝は反則的なのだ。
土御門に聞いたところでは、神宝は全て、何らかの意味で『無限』を秘めている。だからこそ、他の呪具と区別され、神宝とされる。