第10章 迷途忘路(めいとぼうろ)
怖いなら見なきゃ良いのに、と思うが、目を離したらそれはそれで怖い。目を離した瞬間に襲いかかってきたら・・・と思ってしまう。
更に目が慣れて来ると、首から下が薄ぼんやりと見えてきた。な・・・なんで、首が浮いているように見えたのか、わかりました・・・わかりましたとも。
その女性の首の下・・・黒いんです。ただ黒いんじゃない・・・あれは・・・あれは・・・!?
「く・・・蜘蛛!?」
そう、丸髷を結った女性の首から下はそのまま蜘蛛のボディに繋がっていたのだ。
「ぎゃー!!!」
やばいやばいやばい!
曲がり神も怖かったけど、狂骨も怖かったけど・・・蜘蛛はもっとダメ!!!!
ガタガタガタと四つん這いになって、慌てて『女郎花』の部屋を逃げ出した。腰が抜けたように力はいらず、うまく進めないが、とにかく逃げなきゃという一心で手足を動かす。
いやあ!!!!
夢中で這いずるように逃げていると、ぽすんと、頭が何かに当たる感じがした。
これ・・・着物?
恐る恐る顔をあげると、浅葱の着物が目に入った。
浅葱の着物の人?注文取りに来た店員さん?
「お客さーん♪どうかなさいましたぁ?」
店構えになじまない間延びした声。間違いない、あの店員さんだ。
・・・良かったよぉ
「あ・・・あの・・へ・・部屋に・・・部屋に・・・」
言いかけて、妖怪とか言って変に思われないかなと、ストッパーが働いてしまう。
とにかく、ダリだ・・・ダリのいる部屋に戻らなきゃ!
もう、トイレいいからとりあえず戻りたい!
「あの・・・部屋を・・・『桔梗』の部屋は?」
言いながら顔を上げる。その顔を見た瞬間・・・。
へ?
ありえない光景に一瞬、思考が停止する。
見下ろす浅葱の着物の女性、その顔が・・・なかった。
目もない、鼻もない、口もない。
文字通り、正真正銘の・・・のっぺらぼう
「お客さぁあん・・・『桔梗』にもどりたいんですかぁ?」
口がないくせに軽妙に喋る。
あまりにも驚くと、人間、声が出ない。
ぱくぱくと口だけが動く。腰が抜けたようになったまま、後ろ手に後ずさる。
「大丈夫ですよぉ?お客さん!見てください!桔梗の部屋・・・いーっぱいありますからぁ♪」
パン!と大きな音がして、目の前の浅葱の着物の女性が風船のように弾けた。びっくりして一瞬目を背けると・・・。
