第10章 迷途忘路(めいとぼうろ)
浅葱の女性が襖の向こうに消える。ほっと息をついた。
「わー!ひろーい」
物珍しいのか、清香ちゃんがバタバタと走り回る。ダリは出されたお茶をしげしげと眺め、ちょっと匂いを嗅いだかと思うと、なにかに納得したかのように、飲み始めた。
「うん・・・飲めるようだ」
どんだけ疑ってるのよ・・・。現代社会に慣れていないからかな?
あ・・・そうだ・・・ちょっと・・・。私は「ちょっと失礼」と立ち上がる。
「ん?どうした?綾音、大丈夫か?」
目ざとくダリが声をかけてくる。ええい!乙女心のわからんやつ。
「えっと・・・ちょっと、お花摘みに」
そう、私は若干催していたのだ。トイレに行きたい、言わせるな!
「え!?おはな?清香も!!」
あああああ・・・清香ちゃんがいらぬ誤解を。
「いや、違って・・・あの、ままね、トイレに行きたくって」
「なーんだ!いってらっしゃーい」
「本当に、大丈夫なのか?」
いや、トイレ行くだけだし・・・。まったく・・・結局バッチリ全部言う羽目になったよ・・・。ダリってば、こういう時、気がきかないのよね!
若干、乙女心を踏みにじられた感があるまま私は襖を開く。右を見ても、左を見ても、長い廊下が続いている。本当に広いな・・・このお店。とりあえず、店員さんを探して、トイレの場所を聞かなくちゃ・・・。
古い日本家屋をイメージした店なのだろう、左右に等間隔に襖が並び、それぞれの襖の上に部屋の名前が木の札に書かれている。
今、私が出てきた部屋には『桔梗』とあった。対面にあるのは『藤』。どうやら花の名前がついているようだ。
ええっと、確か、こっちから着たよね。玄関の方に行ってみよう。ちょっと歩くと、右に分かれ道があるところに出た。
ぱたぱたぱた・・・
右の方から足音がする。あ、店員さん?
右の道に入ると、すぐにT字路になっているので、そこまで行き、右左を見る。右の方、少し先にお膳をふたつ重ねで持っている店員さんの後ろ姿が見えた。今度の女性は黄色っぽい色(刈安色とかいうのかな?)の着物を着ている。
「あの!」
声をかける。しかし、聞こえなかったのか、パタパタと歩いて行ってしまう。
「ま・・・まって!!」