第10章 迷途忘路(めいとぼうろ)
こんなに広いお店、店員さんに聞かなくちゃトイレの場所わかんないよ!しかし、私の声が聞こえないのか、店員さんはどんどん歩いて行ってしまう。小走りで夢中で追いかける。刈安の着物の女性は、何度も右に左に通路を曲がる。その度に私は「すいませーん」と声をかけるが、一向に止まってくれない。
ほんと、ちょっと、待って!
いつしか、私はほとんど全力疾走に近いほどの速度で走っていた。
でも・・・
追いつけない。
な・・・なんて高速な・・・。
私としては一生懸命追いかけたつもりなのに、いつまで経っても、どんなに足を早めても、刈安の着物の女性に追いつけない。差が広まることもないが、縮むこともない。
ついに、私は足を止めてしまう。ぜーぜーはーはー、肩で息をする。つ・・・つらい。息切れた・・・。
ふと顔をあげると、既に刈安の女性はいなくなっていた。
え?気づかないうちに、どっかの襖を開けて入っちゃったのかな?
ちょっとお行儀悪いけど、私は『通草』と書かれている襖にこっそり耳を近づけてみた。
んんん・・・?なにか聞こえる。
「んんあ・・・・ああうううう・・・ぐう・・」
え?なにか、苦しそうにしている・・・。
なんだろう?女の人の声?
「ぐううう・・・うぐぐ・・ぐああ!あああ!!」
ど、どうしよう・・・なにか病気だったら・・・。
脳内に、胸を押さえて苦悶の表情を浮かべている女性の様子が浮かぶ。周囲を見渡すが、やっぱり誰もいない。どうしよう。助けを呼ぼうにもどこに行って良いのかもわからない。
と、とりあえず様子を・・・。
そっと襖を開けてみる。ちらっと覗いてみると、中は暗い。
あれ?やっぱり人なんかいない?もしかしたら聞き間違い?
だが、奥の方になにか動く影のようなものがある。うずくまっている人?いや、どうやら四つん這いになっているように見える。
「んあ・・・ふぐう・・・あん・・・い・・・め」
声がさっきよりも鮮明に聞こえる。それに伴って、どこかからピチャピチャと水が跳ねるような音が聞こえる。
ん?
よく目を凝らしてみる。どうやら、影は四つん這いというよりも、頭を下につけ、お尻を高く上げた姿勢を取っている人のようだ。お尻がふるんふるんと時折震えている。