第8章 楚夢雨雲(そむううん)
御九里が死者の魂である清香ちゃんに施そうとした術は『魂送り』。そのために、彼は清香ちゃんの魂を形代(人形のようなもの?)に移したようだ。それを鎖で縛り、あとは常世への通路を開いて、形代ごと流す、ということをしたかったようだ。
「それを綾音が邪魔した・・・ということだ」
まあ、ただ術が途中で終わっただけなら、死霊に戻るだけなのだが、その後に彼女は『狂骨』という霊体の塊みたいなエネルギー体に取り込まれてしまった。
「我が狂骨を祓ったとき、この『清香ちゃん』を分離したのだが、狂骨が持っている力が大分流れ込んだのじゃろう。この状態は、一種の妖怪・・・のようなものだ」
要は清香ちゃんは『形代』という実体を得て、さらに『狂骨』の超妖力を吸収したために、死霊ではなく、妖怪として、しかもかなり実体あるものとして顕現してしまった・・・、ということのようだ。
なんだろう?髪が伸びる人形とか、そういうのの仲間かな?
でも、触った感じほっぺも柔らかいし、何より血色良くて、超可愛い。
こんな妖怪・・・あり?座敷わらし的な?
私はダリの上でくつろぐ清香ちゃんのほっぺを指先でツンツンした。
くすぐったそうに喜ぶその顔は、本当に無邪気な子どもそのものだった。
「ねえ!ぱぱ・・・遊んで、遊んで!おうまさん!おうまさん!」
ぱぱ?
ぎゅーぎゅーとダリの長い髪の毛を手綱のように引っ張る。ダリは極力冷静を装っているが、尻尾の動きがさっきより激しくなっており、動揺が隠せない。
どうやら、清香ちゃんは私を『まま』、ダリを『ぱぱ』と認識しているようだ。実際の自分の父母に見えているのか、「そういうことにしている」のか分からないが、とにかくそうなっているようなのだ。
あ・・・やば・・・ダリのほっぺがピクピクしてきた。ちょっと、冷や汗もかいてきているよ。なんとかしなければ・・・。
ちらっと時計を見ると9時を過ぎている。
「清香ちゃん?もう、9時すぎたから、ねんねの時間なんだけど・・・お遊びは明日
にできるかな?」
よ、幼児に話しかけるのってこうでいいんだっけ?
「えー!」不服そうに一旦はプッと顔をふくらませるが、私が「め!」という顔をすると、「はーい」と、すごすご引き下がる。