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天狐あやかし秘譚

第70章 自縄自縛(じじょうじばく)


抱きしめるような格好をしているが、その腕の中には何もない。京依の足元に、ひらりと人形に切った和紙が落ちているだけだった。

「玲ちゃん・・・どこ?玲ちゃん!?」

そう、こんな事態になることも想定していた。鬼が本物の玲子のもとに行かないように、私は人形で身代わりを作ったのだ。あやかしになりかかっていた京依には、和紙の人形に玲子の唾液を染み込ませて作った身代わりの護符が、玲子自身に見えていたに違いない。

玲子がいないことに気づいた京依がゆらりと立ち上がり、私の方を睨みつけた。その目は真っ赤に染まったままだった。

「玲ちゃんを・・・どこに隠したああ!!!」

長い両腕が私に向かって襲いかかってきた。しまった、と思ったときには遅く、術を発動する間もなく、私はその腕につかまってしまった。巨大な右手で首を絞められ、左手で腕を掴まれる。これでは術も使えないし、そもそも身動きすら取れない。
まるで、万力のような力で締め上げられ、腕と首の骨が、ミシリと嫌な音を立てていた。

まずい・・・

もし、京依が私を殺してしまったら・・・。
ダメだ、そうなれば、京依は完全に鬼道に堕ちてしまう。人間に戻ることができなくなってしまう。

ダメだ・・・やめて・・・やめて・・・!
どうして、ダメだったの?何が間違っていたの?

痛みと苦痛で涙が滲む目を薄っすら開くと、京依の赤く燃える目が見えた。
そして、その瞳からは・・・

涙・・・?

それを見た時、私の中で何かが繋がった気がした。

ああ・・・そうか、そうだったんだ・・・。
さっき、京依は叫んでいたではないか。あんなにも何度も、何度も、何度も。
そうだ・・・私、間違っていたんだ・・・

グイグイと首を絞め上げられる。私の体は宙に浮き上がり、ばたつかせた足が虚しく空を切る。

間違った。間違っていたんだ。
なんでわからなかったんだろう・・・。

どういうわけか、この時、頭に思い浮かんだのは、浦原綾音の顔だった。
そう、きっと、綾音だったら、あの清らかな心の持ち主だったら、この子の心の奥にある悲しみに、苦しみに、もっともっと早く気付いたに違いない。彼女を救えたに違いない。

呼吸がままならず、意識が遠くなっていく。ジンジンと頭がしびれ、唇が震える。
やっぱり・・・私、こんな汚れた女じゃ・・・ダメ・・・なんだ・・・
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