第70章 自縄自縛(じじょうじばく)
すうっと意識が闇に溶けそうになる。
浦原綾音・・・
ああ・・・ずるい、なあ・・・。
あんなにあったかいところにいて。
何でも持っていて・・・本当に・・・。
死ぬのかな?私、ここで、死ぬのかな?
不思議と死ぬのは怖くはなかった。ただ、ただ、悔しい気持ちが湧いてくる。
なんでよ・・・私ばっかり、何も手に入れられないで、こんなところで・・・。
浦原綾音のように生きたかった。あの子みたいに、なんの屈託もなく、好きな人に好きと言って、抱きしめてもらって、たくさん・・・たくさん甘えて・・・。
ああ、せめて・・・せめて、後もう一回だけ・・・あなたに・・・あなたの腕に抱かれたかった・・・
「つ・・・ち・・・み・・・か・・・ど・・・」
無意識に唇が動いたその時、ドゴン!と大きな衝撃が私を襲った。正確には私を吊し上げている京依を襲ったのだ。その衝撃のせいで京依の手が緩み、私の身体はそのまま地面に落とされる。崩れ落ちるように膝をつき、喉を押さえて必死に呼吸をしようとするが、息がうまく吸えない。ヒューヒューと喘息のような呼吸音が響き、何度も咳き込んでしまう。
何!?
誰かが京依の後ろから攻撃をした?
目がよく見えない。薄っすらと目を開き、片膝をついてうずくまる京依の背後に目をやる。そこに現れた人影を見て、私は信じられない気持ちになった。
そこには、大太刀を肩に載せた人物が立っていた。月にかかる雲が晴れ、その顔が青い光の中、くっきりと浮かび上がる。
土御門様・・・!?
そこにいたのは、陰陽寮祓衆筆頭『助の一位』、私の主、土御門加苅その人だったのだ。
「あんさん・・・わいの瀬良ちゃんに何さらしてんねん」
土御門様が京依に対して凄む。そして、月明かりの中で、やっとその姿をはっきりと認識したのか、目を眇めるような仕草をする。
「人鬼・・・いや・・・まだ鬼になりきっとらんな?」
「土・・・御門様・・・ゲホゲホ・・・その子は・・・天邪鬼・・・です」
かろうじて、それだけ言えた。でも、それで限界だった。低酸素脳症か何かを起こしているのかもしれない。頭のしびれがとれない。まるで貧血で倒れる直前のようだ。耳のそばで心臓が脈打っているような奇妙な感じ。視界が徐々に灰色になり、風景が闇に沈んでいく。