第62章 堅忍不撓(けんにんふとう)
「俺、ちょっとお前に憧れてたんだぜ?」
島本がニヤッと笑う。
「俺、高校の時、軽かったじゃん?まあ、今もかもしれないけど・・・。
だからさ、お前みたいに落ち着いて、しっかりしてるやつってなんか、こう・・・いいなってな。それで、お前見ていると、やっぱ・・・まあ」
好きだわ、お前のこと。
その言葉に不覚にもドキリとする。もちろん、島本の『好き』が、私の『好き』と違うことなど百も承知だ。
ただ、今日はストレートのバーボンが効いていて、妙に昔のことも思い出してしまっていて・・・。
それに、おそらくこの後、同窓会はないだろうし、下手したらもう会う機会はないかもしれない、とも思っていた。
今回の同窓会。あの会自体、霧島が島本の様子を直接観察するために企画したものだったからだ。準備などにはとても労力を使っただろうに、『島本が不幸に喘いでいる姿を見たい』『他の同級生たちに自分を振った人間の末路を見せつけてやりたい』・・・そんな異常なまでの執着心があの会を実現させたのだ。だから、二度目があるかどうかわからない。
そんな風に思ってしまっていたからだろうか、
「私も・・・だ、お前が好き、だったよ」
つい、島本に言ってしまった。
隠さなければいけない、心の底に押し込めなければいけない、想いなのに。
「ん?・・・なんか、お前、変な色気あるな。
なんか違う意味に聞こえるぞ・・・」
大分酔っているんだろう。トロンとした目で私の方を見て、島本が笑った。
こいつ、普段は鈍いくせに、こんなときだけ鋭さを発揮しやがって・・・。
いけない、ダメだ・・・。
そう思った。
でも、高まった感情が、募りに募った想いが、私の中から溢れてしまう。
ああ・・・もう・・・止められない・・・。
「私・・・いや、
俺は、お前のことが・・・好きだった・・・
ずっと、ずっと・・・」
お願いだ・・・。
通じないでくれ。
通じてくれ。
相反する想いが胸の中で入り交じる。
バーカウンターのダウンライトの下、テーブルの上で指を組み、頭を下げる。
まるで、祈りを捧げるように。
クスリと、笑い声が漏れた。
島本の声だった。
私が顔を上げると、彼がじっとこちらの目を見つめてきた。
優しい表情、だった。