第62章 堅忍不撓(けんにんふとう)
自分はまだ独身で、こんなに苦労しているのに、あいつは・・・。
島本の幸せそうな様子に、霧島の怒りは爆発したという。
その時、彼女は思い出したのだ。祖父が言っていた『管狐』の伝承を。
『霧島の家には管狐が伝わっている』
幼い頃は半信半疑だったが、『島本に思い知らせてやれるなら何でもいい』そう思っていた霧島は、実家の倉庫を漁って、祖父が大切にとっておいていた、先祖から伝えられたという竹の管を見つけたようだった。
『いいかい・・・遼子。何か、困ったことがあったら管狐様にお願いするんだ。そうすりゃ叶えてくださる』
祖父の言葉通り、竹の管の栓を開けると中から10匹以上の黒い狐が飛び出してきた。狐たちは彼女の言うことをよく聞いたという。
そして、管狐に対して『島本に不幸を』と彼女は願ったというのだ。
なんともひどい、救いようのない話だ。
だが、その管狐の呪いも、既に霧消している。島本の妻も管狐の呪力から解放され、家に戻ってきた。全てが、うまくいっている。
「良かったな」
そう、良かった。島本が幸せなのがいいに違いない。
私もグラスを傾けた。今日は珍しく私も飲んでいる。島本と同じバーボン。ただ、私はストレートだ。灼けるようなアルコールの刺激が喉を通って胃の腑に落ちてくる。
「お前、あんまり変わらないなぁ。昔からクールでさ・・・」
「そんなことはない」
もう、仕事は終わりだ。ここからは、プライベート。
もう一杯、マスターにバーボンのストレートを注文する。
島本も、私も、ぽつりぽつりといろんなことを話した。尽きることのない、昔話。同窓会の時にはゆっくり話せなかったことだった。
25年のタイムラグを埋めるように、言葉が静かな店内に降り積もっていく。
テスト勉強を一緒にやろうと言って、結局テレビゲームで遊んでしまったこと。
二人してほぼ同時期に新しい自転車を買ったのが嬉しくて、30キロ以上海岸線を走って、帰り道が真っ暗になってしまったこと。
島本の部活の試合の応援に行ったはいいけど、女子に囲まれていて、なんか辟易したこと。
進路選択の紙を前に、放課後の教室で延々と将来について語り合ったこと。
蘇る、思い出。
あふれる、青春への憧憬。