第62章 堅忍不撓(けんにんふとう)
そんな顔で見られたら、
受け入れてもらえると、勘違いしそうで・・・。
中学生のとき、初めて出会った時の面影がある。
一緒に過ごした学校生活、
いつも、いつも、お前を見つめていた。
お前だけを、見ていた・・・。
胸が高鳴る。心臓が痛いくらいだった。
唇が乾き、舌が張り付きそうだ。
お前から、目を離すことができない。
ああ・・・神様・・・神様・・・
どうか、一度だけ、
本当に・・・一度だけ・・・
「島・・・本・・・」
私から、島本から、どちらともなく顔が寄り合い、
ついに、唇が、触れ合った。
温かくて、優しくて、
涙が、出そうだった。
甘い、アルコールの匂い
柔らかい、唇の感触
遂げられなかった思い
遂げられることのない思い
そして、苦い・・・後味
「ありがとう、島本」
「宝生前・・・お前・・・」
私の思いを理解して、知って、
多分、自分の性的指向を曲げて・・・。
お前は優しい奴だ。知っていた。
分かっていた。
すまない・・・。これ以上は、私が耐えられない。
叶わない思いを、抱えることに、耐えることができない。
溢れる思いを押さえつけるので、精一杯だ。
左手を彼にかざす。
そこにある石の指輪を媒介に、術を発動した。
ー石意滅志(せきいめっし)
キュウゥウ・・・
微細な音を立て、指輪が震える。その振動が島本の脳の奥深く、記憶を司る海馬に作用した。これは、直前の記憶をかき消す土の術式・・・
一瞬、島本の目から光が失われ、また、戻った。
パチリ、と島本が瞬きをする。
「あれ・・・俺、なんかぼっとしていた?」
「別に、そんなことないぞ」
私は笑ってみせた。
「なんの、話をしていたっけ?」
「奥さんが戻ってきたって話だ」
「ああ、そうなんだ、不思議なこともあるもんだよ」
「良かったな」
私はグラスを上げた。今日は、いいことがあった、いいことを聞いた記念日だと、そう言って。
「また会おう、宝生前」
彼も応えてグラスを上げた。
互いのグラスが空中で触れ合い、軽い音を立てた。