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天狐あやかし秘譚

第2章 禍福糾纆(かふくきゅうぼく)


「それに・・・この匂い・・・。まだ『をとめ』のようじゃな」

え?乙女って・・・そりゃ私は乙女だけどさ。

「拾いものじゃな」

ダリが、そっと顔を近づけてくる。
え?え?えーーー!!!
キスをせんばかりの距離だ。

思わず両手で突き飛ばしてしまう。

「ん?なんじゃ?愛してほしいと言ったのはそなたじゃろう。」

そ、そりゃ言ったけど・・・言ったけど・・・いきなりは・・・。
いや、ゆっくりでも・・・。え?ど、どうしよう!?

「おお、そうか、褥(しとね)がいりようか?」

しとね?って、要はお布団のこと?

「それはすまんことをした。野辺のまぐわいは気に召さぬか・・・?」
さらっと「まぐわい」とか言うな!とツッコミを入れている間に、『では』、とダリは立ち上がると、ぱっと手にした扇子を開いた。旋風がダリを中心に渦を巻く。それは瞬く間に強くなり、粉塵を巻き上げる竜巻のようになった。

「きゃ」

たまらず目を閉じる。ごうごうという風の音が20秒ほど続いただろうか、すっと収まる。

「もう良いぞ、目を開けよ」

ダリに促され、恐る恐る目を開けてみる。

え?なんで?

さっきまで山の中にいたはずなのに、気がつくと、いつの間にか私とダリは広い広い古民家の一室にいた。

三方を障子に囲まれ、障子のない壁には左手に床の間と平書院、右手には違い棚があった。床の間には真っ赤な山茶花が活けてあった。
古民家、とはいったものの、障子も畳も綺麗であり、三方から差し込む日の光で明るさも十分だ。

「これで、心残りはないな・・・では」
ダリがぐいと私に迫ってきた。がたたっと私は後ろ手に手をついて、座ったまま後ずさる。
部屋は十分な広さがあるが、迫ってくるダリから逃れようとしていると、あっという間に壁際に追いやられてしまう。

「なに、怖がらずとも良い。・・・ふむ、面倒だな、動くでないぞ・・・」
一瞬、ダリの両の眼がぬらりと赤く光ったように見えた。瞬間・・・身体が動かなくなる。

「あまり動き回られると面倒じゃからな。少々留め置かせてもらった」
そのまま、ふわりとダリが私を抱きしめる。

「褥(しとね)は、我の衣で良いじゃろう」
シュルシュルと下紐を解き、あっという間に上の衣を脱ぎ捨て、そこに私をそっと横たえた。
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