• テキストサイズ

天狐あやかし秘譚

第43章 報恩謝徳(ほうおんしゃとく)


ぬぬぬ・・・。しかし、贈り物とは、贈りたい者がわたすべきではないのだろうか?しかし、説得しようとしても、環の心根は変わらないようで、『私、芝三郎のこと、見てるから、ちゃんと渡してね』とさらに念を押され、結局引き受けることとなった。
まだ日は高い。あの女はいつも通りなら、あの辻に立ったままだろう。

「分かった。では、共に参ろう」

例の辻まで歩きながら、環に色々と尋ねてみた。
「なぜ、母君は主のことを怒っていると?」
「だって、事故にあったのって私のせいだもん。私が信号見ないで飛び出しちゃったから」
そうか、環の母君は、環を助けようとして自らが事故にあった・・・。それを環は悔いているのか。
「・・・怒ってなど、おらぬのではないか?母君も主のことが心配であそこにずっと立ち尽くしておられるのだろう?」
「うん・・・そうなんだけど・・・。最期に、ママ・・・泣いてたから・・・もしかしたら、嫌われちゃったかもって・・・」

子を嫌う母がどこにいるのだ。
想ってるからこそ、辻に立ち尽くしているのだろう。離れられぬのだろう。

前に聞いた。
現し世に残る死霊は魂が削られ、摩耗していくという。そして、最期には冤鬼という魂の抜け殻のような状態になり、あやかしとなって現し世に溶け出してしまう。だから、死霊は一刻も早くそのあるべき場所である常世に向かうべきなのだ。

もし、この環の『ぷれぜんと』がきっかけになるのなら、そうしてやろう。

「環・・・もし、伝えられたらじゃが・・・、母君に伝えたい言葉はあるか?」
うーん・・・と、彼女は空を見上げて考える。
「その絵に描いてあることかな・・・。『ありがとう』・・・あとは・・・笑っていてくれれば・・・いいんだけど」
「うむ・・・分かった。伝えるよう努める」
拙者がそう言うと、環は嬉しそうにした。

いつもの場所に、いつもの格好で、あの女、環の母は立ち尽くしていた。目はどんよりと濁り、辻の中央、車が行き交うあたりを見ているのだろうとまではわかるが、まさしくはどこを見ているかよくわからない。

「環は近くまでも来ぬのか?」
「うん・・・ここで見ている」

『おうだんほどう』の渡し方については綾音から聞いて、知っていた。向かいの灯火が『みどり』に灯れば渡って良い、という合図だ。
/ 475ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp