第5章 夢幻泡影(むげんほうよう)
同時に、ダリが私の眉間に刀印を突きつけ、呪言を唱える。
「嘆かるる 思ひ渡りし 夢違へせよ
この空へ 魂かへしせよ 従ひたまえや」
ダリの言葉が刀印を通して光になり、私の額で弾ける。
体中に温かく青い光芒が染み渡るように広がっていく。
心の中の感情の奔流が薄れていく。
ゆっくり・・・ゆっくりと私の体の力が抜けていった。
くたり、と、私はベッドに横になる。
息は、まだ少し荒い。
「大丈夫か?綾音・・・」
覗き込むダリの顔はいたく心配そうだ。
コクリと、頷いた。
「今・・・のは?」
「綾音が気にかけたからだろう。魂が飛んできたようだ」
ダリが言うには、あの幽霊はずっとあそこにいたけど、見つけてもらったのは初めてだったのだろうと。私が見つけて、声をかけたので、「わかって欲しい」と自分の霊を眠っている私に向かって飛ばしたのだという。
「眠っている間に、魂が入り込めば、それが夢になる」
だから、ダリは『夢違え(ゆめたがえ)』をしたのだそうだ。悪い夢を祓う術。
あのまま放置していたなら、私は取り殺されていたかもしれない、というのだ。
「だから、構わぬことだ、と言ったのに」
ダリが、ギュッと抱きしめてくれる。それだけで、ものすごくホッとする。
いつのまにか、しがみつくように抱きしめているダリの腕をギュッと握っていた。
そのまま何分経っただろうか。やっと、少しずつ落ち着いてきた。怖いは怖いけど、先程まで感じていた圧倒されるような恐怖感はなくなった。
ただ・・・。
どうしよう・・・もう一度夢を見るかもしれないと思うと、怖くて、眠れない・・・。
ちらっとダリの顔を見る。
「あ・・・あのさ・・・ダリ」
「なんじゃ?」
「えっと・・・昨日とかさ、あ・・・朝はああ言ったけど・・・その・・・」
やっぱり、言いにくい。恥ずかしいのもあるけど・・・なんとなく、自分が怖くなったら一緒に寝てくれなんて、ずうずうしいかも、と思ってしまう。
「我と一緒に寝たいのか?」
ば・・・バレてる・・・。
恥ずかしくて、下を向いてしまう。この年で、おばけが怖いから添い寝して・・・とか。
ダリが、にやっと笑ったように思えた。
「我は主を愛すると言ったからの・・・。その代わり・・・」