第37章 愛別離苦(あいべつりく)
「さ・・・こん・・じ・・・?」
ぼろり、とホシガリ様の目から大粒の涙がこぼれた。それとともに、ズルリと、ホシガリ様にすがりついていた草介さんの腕が落ちた。
どうしよう!草介さんが死んじゃう!
そう思ったが、同時にこのチャンスしかない、とも思った。
私は渾身の力と想いを込めて声を張り上げる。
「あなた!あなたの望みは何!?本当に死ねれば満足なの?死ぬことが、あなたの本当にしたかったことなの!?」
ホシガリ様がゆっくりとこちらを向く。
その顔はかつてのあの美しい顔にもどっていた。
「貴様、余計なことを!」
圭介が私の口をふさごうと襲いかかってくる。しかし、ダリのほうが一瞬早かった。
「ぐふっ!」
草介さんがホシガリ様を押さえつけた瞬間、ダリはすでに退魔の槍を拾い上げ、私の方に向かっていたのだ。ダリが突き出した槍の石づきが圭介のみぞおちにめり込んでいた。その力に、圭介は白目を剥いて崩れ落ちた。
ホシガリ様が震えていた。力が抜けたのか、その手から退魔の槍が消えていた。槍が消えるとともに、草介さんの身体が崩れ落ちる。その身体の傷が不思議なことに消えていた。
ダリに支えられて、立ち上がった私は、彼女に近づいていった。
「私は浦原綾音、あなたといっしょにずっといた・・・。あなたの本当の望みは何?あなたはどうしたかったの?」
ホシガリ様の顔が変わる。いや、正確に言えば品々物之比礼(くさぐさのもののひれ)を使って、絶世の美貌を手に入れる前の、生まれもった顔に戻っていく。
「私は・・・私は・・・」
ぽうと宝生前と圭介の身体が光りに包まれる。ぼろぼろになった宝生前の身体と衣服がもとに戻っていく。そして、圭介もまた、その身体から毒気が抜けていくように、元の人間の姿に戻っていった。
それとともに、目の前のホシガリ様の容貌が急速に変わっていく。顔にシワが増え、美しくハリに満ちた肌がカサカサと萎れていった。髪に白いものが混ざり、筋肉がやせ衰えていく。
彼女は、老いていっていた。
「綾音さん・・・」
いつの間にか、私の後ろに宝生前が立っていた。致命傷とも思われた傷は、おそらく彼女が領巾の力で癒やしたのだろう。