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天狐あやかし秘譚

第32章 毛骨悚然(もうこつしょうぜん)


「だ・・・ダリ!!!」

恐ろしさのあまり、両の手で顔を覆ってしまう。
「なんじゃ・・・異なことよ」
ダリが再び槍をひと払いした気配がある。そっと手をどけてみてみると、今度は首が切り落とされていた。

だけど・・・!

シュルンと切られた首がもとの胴体に戻ると、あっという間にくっつき再生する。

「ほほう・・・。綾音・・・下がっていろ」

ダリが私とホシガリ様の間に入る。私と宝生前は草介の身体を引きずり、なるたけ壁際に退避した。

「胴を薙いでも、首を切っても滅せぬなら・・・細切じゃ」

ぺろりと舌で唇をひと舐めすると、槍を大きく振り回した。
その姿はまるで舞踊のようにも見える。

閃光のように槍が宙を幾重にも切り裂く。
その光一本一本が斬撃であり、それがかすめるたび、ホシガリ様の身体は引き裂かれた。

「ぎゃああああああ!!!」

ホシガリ様が断末魔の叫びを上げ、文字通り細切れになるのに、刹那ほどの時間もかからなかった。

ダリが槍を振り、切っ先についた血を払う。そのまま、槍は霧となって消えた。

「終わったぞ、綾音」

「う・・・うん」
ちょっと、ホッとした。なんだか正体がわからなかったけど、あそこまでバラバラにしたのなら・・・。

え?

私は目を疑った。

ズリ・・・ズリっとばらばらになった肉片が動き、集まり、ネチャネチャと嫌な音を立ててくっつき始めている。

再生している!?

「ダリ!後ろ」

私が声を上げたときには肉片は急速に相互にくっつき、まるで粘土が練り合わさるかのようにひとつの肉塊になっていく。

私の声でダリも振り返り、軽く舌打ちをする。
「しつこいの・・・」

右掌を肉塊に向け、呪言を唱える。

「高照らす ひこそあらめや かなた断ちなむ
 射干玉(ぬばたま)の 闇こそ断ちなむ その光持て」

キュウウ・・・

妙な音を立て、ダリの右掌にオレンジの光が収束する。
轟音とともに火球が打ち出されると、肉塊から立ち上がらんとしていたホシガリ様を業火が包み込む。

ひぎゃあああああああ!

凄まじい火炎の中で、顔を覆い、悶え苦しむ影が見える。
ダリが立ちふさがり、その凄惨な光景を私の視界から隠してくれた。
叫び声が消え、業火の勢いが落ちてきたことがダリの背中越しにも伝わってくる。
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