第32章 毛骨悚然(もうこつしょうぜん)
そして、『何か』は髪が長い女性のように見えた。うつむいており、長い髪がかかって顔は全く見えない。赤い着物を着ており、両の肩から白い布切れのようなものを垂らしている。
「あれが・・・ホシガリ様・・・?」
ゴクリと宝生前が息を呑む。
「あれは、祓って・・・よいな?」
ダリが戦闘態勢に入る。あの女性のようなホシガリ様をダリも敵とみなしたようだ。
瞬間、古槍を右手に顕現させ、ダリが床を蹴って奔った。
古槍の一閃
草介の傍らを抜け、ホシガリ様をダリの槍が切り払った。
ホシガリ様は横一線に切れ、真っ赤な血を吹き出した。
げげげ・・・グロい・・・。
私は思わず目を背けてしまった。今まで、あんなふうに血を流した妖怪がいただろうか?大抵の妖怪はダリに切られると霧のように散っていってはいなかったか?
まさか・・・あれ・・・人間だとか?
私の思考が妙な方向に流れている間に、ダリが草介を横抱きにして連れてきた。そっと、私達のもとに彼を寝かせる。
「息はある・・・。眠っているようだ」
宝生前もしゃがみ込んで、彼の脈を取ったりする。どうやら、問題はないようだ。
良かった。どうやら草介さんは、ホシガリ様への生贄になる前になんとか連れ戻すことが出来そうだ・・・。
やっぱりあれがホシガリ・・・
そこまで考えて私は目を見開いた。
体が震え、すぐに言葉が出ない。
「あ・・・あれ・・・」
私の様子がおかしいことに気づいたのか、宝生前が顔を上げる。そして、やはり私と同じものを目にして、驚愕する。
「だ・・・ダリさん・・・まだです」
そう、ダリが先ほど切ったホシガリ様の傷口がみるみる塞がっていたのだ。流れ、飛び散った血液も、まるでビデオの逆回しのように傷口に戻っていく。
そして、それが顔を上げた。
美しい、女性・・・のように見えたのは一瞬だった。
それは世にも邪悪な歪んだ笑みを浮かべた。
「これでは、妾を殺すには至らぬ」
そのまま大きく口を開き、一足飛びにこちらに向かって襲いかかってきた。
開いた口には人にはありえない長い犬歯が光り、振りかざした手には5センチはあろうかという鋭い鉤爪が生えていた。
人間じゃないことはよく分かった!