第32章 毛骨悚然(もうこつしょうぜん)
「どうやら、あれは裏戸のようですね」
草介が向かい合っているのは、やや大きめの両開きの扉だった。そこを開ければ本家の中に入れるようだが、玄関、という風情ではない。裏口、のようなものなのだろうか。
そして、裏戸に向き合う草介の左右に人々が一列に並び、松明や旗を掲げていた。一番手前に高灯籠を持った者が左右に控える。
「これより、輿入れの儀を行う!」
多分、その列の一番奥、家の側にいるであろう圭介が声を上げる。
「ホシガリ様ぁ、ホシガリ様ぁ・・・御身、固め事な忘れそ・・・このをとこ、御身に招き入れ奉らめ・・・ホシガリ様ぁ、ホシガリ様ぁ・・・
その代(しろ)に、くがね、しろかねあたえ給へ、さきわい給へ」
まるで神社の神主様があげる祝詞のようだ。その声に呼応するかのように、おそらく浮内の親族のものだろう。裏門を開く。静々と、草介は開いた扉の方に進んでいった。
「ホシガリ様ぁ・・・ホシガリ様ぁ・・・」
親族が総出で声を上げる。
「御身、固め事な忘れそ・・・」
繰り返し、繰り返し、親族たちは傅きながら、祝詞を奏上し続ける。
ゆっくり、ゆっくりと草介は歩き、そのまま、裏門に入っていった。
ぎぎぎぎ・・・と軋みながら、扉が閉ざされる。
ガチャン
そして、大きな音をたて、鍵がかけられた。
「宝生前さん・・・みんながこっち来るみたい」
「隠れたほうが良さそうです」
親族一同、こちらに向かって歩き始めたので、私達は慌てて壁から離れ、木立の中に身を潜める。そっと見ていると、親族たちもお付きの人たちも、一言も言葉を交わすことなく、来た道をそのまま帰っていった。
「え?これで・・・終わり?」
「どうやらそのようですね」
私と宝生前は暗い木立の中にぽつんと取り残されてしまったような状態だった。ダリは、多分、木の上にいる、と思う。
行ってみましょう、という宝生前に誘われ、裏戸に駆け寄るが、ガッチリとした鍵がかけられており、とてもじゃないけど開けそうになかった。
まあ、ダリにぶち破ってもらう、という手もあるが、そんなことをしたら本家の人間に総出で追いかけられてしまうだろう。
「どこか、別の場所から侵入したほうがいいかもしれないですね」
周囲を見回しても人の気配はないが、その代わり、すぐに入れそうな窓なんかもない。
