第29章 異聞奇譚(いぶんきたん)
そう言えば食堂の女将も言っていた。長男ではなく、三男が婿になる、と。
「ええ、そればかりは本家の娘の好みを尊重するわけです。そもそもが、本家の娘の好み通りに婚姻が行われなかったことから起こった悲劇ですからね」
はあ、なるほど、筋は通って・・・いるのかな?
「では、選ばれなかった方はさぞかし悔しい思いをされるでしょうな・・・。莫大な遺産の継承権がかかってる、わけですからね・・・」
はは・・・と圭介は軽く笑って受け流す。この手の質問はよく来るのかもしれない。
「習わしなので、仕方がないと割り切っていますよ」
「いやあ、実に興味深い!!!」
宝生前は、『異類婚姻譚とも言えるのか、いや・・・』『嫁側の要望が強いというのは・・・』などとブツブツ言っている。確かに、相当興味深いのだろう。ただ、私の観察が間違っていなければ、圭介もまた、大分じれているように見えた。そもそも大きなお祭の主催をする家の当主だ。なにか次の予定があるのかもしれない。
「あ・・・あの・・・宝生前さん。そろそろ私達も宿を探さないと・・・」
助け舟を出してみる。圭介があからさまにホッとした顔をした。
「おや!宿の手配がまだでしたか・・・。もしよければ、うちで宿をご紹介しましょうか?」
「それは助かります!」
「もちろん、当家に逗留してもらうというのも良いのですが、今日は浮内の家ではないところに宿泊されたほうがより楽しめると思いますので」
そう言って、圭介は笑った。
ん?楽しめる?
この時、私が引っかかった言葉の意味は、数時間後に嫌というほど知ることになる。