第29章 異聞奇譚(いぶんきたん)
以来、長女は心を荒ませ、狂ったように暴れ、自らの母を、そして長者である父を、その使用人をもすべて殺してしまった。何もかも失った娘は、若者が自分を選ばなかったのは、自分に富が、美しさが、権力が足りないからだと叫び狂い、山にこもり、最後は鬼と化してしまった。
こうして鬼となった娘は、夜ごと周囲の村々に現れ、金品があれば金品を奪い、美しい男がいればそれを犯し、若い女がいればその血肉を貪った。
そんなある日、この地を治める大名が島にやってきた。鬼と化した娘はその大名の権力をも奪い取ろうと襲いかかる。しかし、さすがは大名。そのお付のものの強さは凄まじかった。戦いの末、お付きの侍に返り討ちにあった鬼は、その数奇な人生を終えることになった。
この後、この娘を不憫と思った村で二番目の名代だった浮内の祖先は、鬼と化した娘の霊を「ホシガリ様」として家に祀ることとした。そして、丁重に祀られた娘はいつしか浮内家に福をもたらす氏神となった。
このホシガリ様を慰めるために、当時娘が愛した村の若者の代わりとして浮内の分家の中から『ホシガリ様が選んだ』とされる若者を本家に輿入れさせ、ホシガリ様との婚姻を行う儀式が始まった、ということである。
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なんだか随分救いがない話だ。その鬼になった娘が『ホシガリ様』ということか。なるほど、あらゆるものを『欲しがる』から『ホシガリ様』・・・。
ちなみに、ダリは圭介が話している間、私の横であくびを噛み殺していた。貴族っぽいので、当然大あくびというわけではないし、多分私にしかわからない程度だと思うが、相当飽きている様子だった。
ただ、宝生前は目を輝かせている。圭介が話している間中、ノートにメモを取りまくっていた。
「素晴らしいです!輿入祭は本家筋を絶やさないようにする、という目的の他に、ホシガリ様という神の力を維持するという意味もあるのですね。こういう話はよく『巫女と神』との間の神婚などで見られますが、こちらでは神が女性で、結婚するのが男性なのですね・・・」
「ははは、家ではこのように言い伝えられています。ご満足いただけましたか?」
「ええ!大変興味深い・・・。ところで、婿なのですが、特に長男をとか決まりはない・・・?」