第26章 一陽来復(いちようらいふく)
その鳥居の下に、白いお着物を着た女の人が立っていた。
よかった・・・やっと、追いつけそう。
私は階段まで駆け寄ろうとした。
『行っちゃダメ!』
後ろから声がした。前にいる女の人は口を開いていない。なのに、あの人の声が後ろから聞こえるのだ。
私はびっくりして足を止め、後ろを振り返る。石畳の先、並ぶ灯籠の彼方に青色の火がチロチロと燃えていた。声・・・あそこから?
でも・・・。
私は鳥居の方を見た。そこにはあの人がいる。私を待っている・・・。
行くわけじゃない・・・連れていくんだ。
私がいるお家に、芝三郎と、『桔梗』さんと、ぱぱと・・・ままがいる、あったかい場所に。
毎日、毎日、幸せにしているところを、見せなくちゃいけないの。
見てもらいたいの・・・。
だって、だって・・・あの人は・・・。
あの人は、私の・・・。
私は鳥居の方に向かって歩き始めた。あの人がニッコリと笑っている。
私のことを・・・待っている。
見て!ほら、こんなにきれいなお着物着せてもらえたの。
髪の毛もふわふわにしてもらったの。
おリボンも自分で選んだの。
美味しいものいっぱい食べて、いっぱいニコニコして・・・。
だから・・・だから・・・
女の人が手を伸ばす。私も石段を上り、手を伸ばした。
帰りましょう・・・帰ろう・・・さあ・・・
「・・・さんも一緒に、行こう」
手が、触れる、その刹那。
『行っちゃダメー!!!!』
絶叫に近い声がした。風が巻き上がり、私は思わず目を覆った。
あれ?あったかい・・・?
気がつくと、私は着物姿のぱぱの左手に抱っこされていた。ぱぱの右手には長い槍が握られている。
「ぎゃあああああ!」
目の前で黒い影のような何かが横薙ぎにされていた。ぱぱがやったんだとわかった。
さっきまで白い着物を着たあの人だと思っていたのは、夢の中の黒い影だったみたいだ。
「夜道怪か・・・疾く、去ね」
ぱぱが言うと、その黒い影は細かなチリのようになって、空に消えていった。
そのまま、周りにあった石灯籠もまるでガラスが割れるように散り、消えていった。
「清香ちゃん!」
ぱぱに抱っこされていた私のところにままが来て、ぎゅっと抱きしめてくれる。
私は、急に怖くなった。