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天狐あやかし秘譚

第23章 隋珠和璧(ずいしゅかへき)


そっと、家の中を覗いた。夜なので、皆寝ていた。
布団を剥いでいる元気な子、大人しく静かに寝ている子、この家には今、3人の子がいる。別の部屋も見てみようと移動した。別の部屋では、両親が寝ている。父親は大いびき、母親はすーすーと心地よさそうに寝ていた。

人は、なんと豊かな表情をしているのだろう。
私は思った。飽きることなく、見られるなあと。

「君・・・誰?」

その時、背後から声をかけられた。身体がビクッとする。きっと、これを人の子は『驚いた』というのだろう。そう、私はとても驚いた。

振り向くと、この家の一番大きな子、男の子が立っていた。

「君・・・誰?」

もう一度聞かれる。
「私は・・・」
これが、私と彼の出会いだった。

その日を境に、私と彼は頻繁に会うようになった。
最初は夜中に、そのうち、昼にも。
彼はハーモニカというものを吹いてくれた。
それは不思議なものだった。
彼の息に合わせて、美しい音が流れた。

彼は野良仕事の大変さや隣町に行ったときに見たことを教えてくれた。
私は頷きながら聞いた。
人の子と話したのは、生まれて初めてで、最初はどうしていいかわからなかったけど、彼が笑いながら話すいろいろな事柄は、すぐに私の真ん中をあったかくした。

季節が巡る。
すぐに彼は立派な青年になった。

ある時から、彼の元気がなくなった。花がしおれるように、蝶が強い風に翻弄されるように、弱々しくなったように見えた。

それとともに、家の中の雰囲気も変わった。
両親が笑わなくなった。彼の兄弟が涙を流していた。喧嘩をしたわけでもないのに・・・。なぜかわからず、私はとても戸惑った。

そして、とうとう、ある時、見たことのない服を着た彼は私にこう言った。

「行かなければならなくなりました。・・・でも、必ず戻ってきます」

彼が私をぎゅっと抱きしめた。
生まれて初めて感じた、人の子の温かさだった。
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