第23章 隋珠和璧(ずいしゅかへき)
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瞬間、私の脳内にいくつものビジョンが走った。走馬灯、というのがあるなら、こういう状態なのかもしれない、と思った。
小さな苗木、私はその樹の横でうずくまっている。
太陽が降り注ぎ、大きくなる。
時間が過ぎ、私の目の前を、私の体の上を、私の腕の先を、たくさんの動物が駆け回る。
人の子が私を見上げて何かを言っている。
幼い兄弟だ。
すぐに二人は大きくなり、私の身体を登ったり、腕から飛び降りたりする。笑い顔、楽しそうな声。
季節がギュンギュンと巡る。私の身体はますます大きくなる。
夏には葉を茂らせ、秋には落葉し、冬には雪を被り春を待つ。
目の前に里が出来、大きくなり、人が増える。
狩りをする者、木の枝を拾う者、旅をする者・・・。
たくさんの人の子が私の前を通り過ぎていく。
人の子の家が大きくなる。森の木々を切りはじめ、その樹で家を作っている。
私のところにも、人の子が来た。
私を切るの?切って、人の子の家にするという。
大きな木だったからだろうか?私を切る前に、男が私に頭を下げた。
人の子の家になる、というのはなかなか新鮮な体験だった。
もう私の身体を獣が跳ね回ることもなく、人の子が私で遊ぶこともない。
それは残念なことだったが、それ以上に楽しいこともあった。
人が、いつも周囲にいた。
夫婦が集い、交わり、子を成す。
食事をし、衣服を作り、歌い、笑い、ときには喧嘩もした。
生まれた子は成長し、またつがい、交わり、子を作る。
こうしてどんどんと人の子は増え、私の周りには笑い声が絶えなかった。
『私も、混ざりたい。』
いつからか、そう思うようになった。
十分長く生きた私は、姿を人に似せることができることを知っていた。
ある日、私は人の子の姿になり、家の庭に降り立った。
手を握る。開く。周囲を見回し、声を出してみる。
あ・・・あ・・・
人の子のように、見えるだろうか?
その姿は何人も見た人の子の姿の中間くらいを真似た。
人の子には男と女がいる。
私は女を選んだ。特に理由はない。ただ、子を成すのが女であるなら、実をつける我が身は女だと思ったから、というくらいの理由だ。