第23章 隋珠和璧(ずいしゅかへき)
「綾音・・・」
ダリが急かしてくる。ちょっと待ってよ。早いんだってば!
ヒュンヒュン動く影が、やっと一瞬止まった。
けやきの樹の幹の前、なにかに怯えるように座り込んでいる!
「ダリ!樹の前、止まっている!」
「我にも見えた!」
ダリが槍を突き立てようとする。
その瞬間、私の目に映ったのだ。
赤い色の和服を着た、肩を超す振り分け髪の女性だった。
肌の色は白く、唇は真っ赤だった。
そして、その目は真っ黒な穴が空いているようで・・・
え!?ちょ・・・
その女性の怪異に槍を突き立てようとするダリの手を咄嗟に私は掴んでいた。
「どうした綾音・・・」
槍の穂先が怪異の顔に刺さる直前でダリが槍を止めてくれる。
「なぜ止める?」
私の目には映っていたのだ。その女性の怪異の真っ黒な目から、ボロリと黒い涙が溢れ、頬を伝ったところが。それを見て、咄嗟に止めてしまった。
「泣いている・・・」
私が呟くと、ダリも涙に気がついたようで、その槍を下ろした。
さっきの声、「壊さないで」という切ない呼び声。
そして涙・・・。
私には、この怪異が何かを訴えているような気がしてならなかった。
思わず、私は彼女の頬に手を伸ばしていた。
その手に、黒い涙が、一粒落ちた。