第21章 大声疾呼(たいせいしっこ)
「やめろ、やめろ、やめろおおお!連れて行くな、奪うな、取るな!私から・・・私から、もう何も・・・・奪わないでええええ!」
河西の絶叫が響く。その間も鬼道はボロボロと崩れていく。地獄につながる洞が、現世の裂け目が壊れていく・・・。
「がああ!!!!」
最後の力を振り絞ったのか、河西さんが左前を押しのける。
鬼道は既にバスケットボール大くらいにまで削れていた。
「待って・・・ダメ!置いてかないで・・・行かないで!!・・・私も・・・私も・・・」
河西さんが崩れ行く鬼道に向かって走っていく。左前の術を振り切ったせいで女怪が呼び出せるようになったためか、バスケットボール大の鬼道から黒い腕が何本も何本も伸び、それが河西さんを求めるように中空を掻いた。
ダメ・・・このままじゃあ、河西さん、あの手に連れて行かれちゃう。
何故か私は思った。普通に考えれば、バスケットボールくらいの大きさの空間を河西さんが通り抜けられるわけがないのだろうが、このときの私には、河西さんがあの手を掴んで、そのままするりと鬼道の中に吸い込まれるように消えてしまうビジョンが見えていた。
河西さんは、このまま鬼道に飛び込んで、死のうとしている。そうだ、彼女は元々、線路に飛び降りようとしていたではないか。死のうとしていたではないか。
「ダメええ!!!」
身体が、ひとりでに動いていた。私は大声で叫び、鬼道に向けて走っていた。
もしも、もしも、私が考えたとおりだとしたら、あなたは、あなたは・・・。
自分を騙した、自分を犯した人を、それでも、そんな人からでも愛されたいと願って・・・。
それで、あんなにも絶望的な顔をしていたの?
いけない・・・そんな顔したまま、死んだりしないで!
鬼道になんか、堕ちないで!!
河西さんが伸ばした手を黒い女怪の手の一本が掴む。
でも、私も間に合った。河西さんの胴体にタックルするようにしがみつく。
!?
驚いたように私を見る河西さん。その女怪になりかかった赤い目から、一筋、涙が流れたように見えた。
「行くなあああああ!」
私は絶叫していた。
「な・・・んで?」
河西さんの目が、右目だけ女怪のそれから通常の人間の黒い目に変わっていた。
だって、私とあなたの違いは、出会ったのが誰かという、その一点だけ。
愛されたかった、その思いは・・・同じじゃない!
