第20章 往事茫茫(おうじぼうぼう)
『天狐が愛したただ一人の女』
上?
『あなたは、その代わり・・・代替物なの』
『いやよね・・・嫌。憎い・・・憎いでしょ?』
『妬ける、焼ける、灼ける・・・体中が焼け爛れて、恨みの気持ちで胃が逆流する』
『天狐はあなたのものにならない』
『天狐が愛したのは、碧音だけ』
『碧音だけ・・・あなたは単なる・・・・』
代替物・・・。
嘘・・・嘘だよね?
じわっと、胸の中に黒い何かが湧いてくる。
私だから、愛したのではなく、碧音という女性に似ていたから?
ワタシヲアイシタノジャナイ
そうなの?
『憎いね、憎いね・・・・一緒に行こう、行こう・・・恨みを晴らそう、みんな壊そう』
『誰もあなたを助けない、誰もあなたを顧みない、誰もあなたを求めない』
『こんな世界・・・いらないよねええ!!!!!』
絶叫する。絶叫したのが私なのか、その声なのか・・・分からない。
そうだ・・・いらない・・・いらないよ。ダリがいないのなら、誰も私を愛さないのなら、私、私は生まれたときから、顧みられなかったから・・・。
『かあいそうにね・・・親からも見られなかったね
かあいそうにね・・・誰も助けなかったね
かあいそうにね・・・優しいと思った男は・・・実は・・・』
あなたを欲望のはけ口としか、見てなかったんだよねえ?
ニヤリと嫌な笑みを浮かべた女が私とダリたちの間に浮いていた。
黒い身体、黒い顔、目だけが爛々と赤く燃えていた。口を開くと赤く笑う。
その影が手を伸ばした。
『一緒に行こう・・・私達と・・・仲間だよ・・・仲間がいるよ』
な・・・かま?
そうか・・・仲間。一緒・・・みんな一緒なら・・・恐くない?もう、淋しくない?
私はおずおずと手を伸ばす。
『おいで・・・おいで・・・』
いつの間にか嫌な笑みの女の背後に数百、数千、数万の同じような女たちが見えた。皆、ギラギラとした目で私を見ていた。あそこは・・・温かいのだろうか・・・?
意識がモヤがかったように何も考えられない。あの集団に浸れば、一体感が、この上ないエクスタシーが待っているような気がしてならなかった。