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天狐あやかし秘譚

第20章 往事茫茫(おうじぼうぼう)


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【往事茫茫】過ぎ去ったことを思い出そうとしても、曖昧で思い出せないこと。
過去に拘るのってどうなのさ!みたいな。
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目の前の光景が信じられなかった。
ライブラリーの両開きドアは吹き飛んでいるのか影も形もない。そのドアがあるべきところに目に見えない障壁のようなものがあるのは触ると分かる。手を触れると、ブニョンとした妙な感触で空間自体が私の手を押し返してくる。

その障壁の向こうは色のない奇妙な光景が広がっていた。灰色の世界。何らかの衝撃でだろうか、本棚から雪崩落ちたと思われる本が何冊も中空でとどまっていた。

時間が停まっている、というのはこういうことか・・・。

そして、入り口を入ったすぐのところにダリが例の槍の石づき部分を地面に突き立てて、それを両手で握り、跪くような格好で停止している。すぐそこにいるにも関わらず、手を伸ばしても届かない。

ダリの向こう側。入り口の対面にある奥の間には大きな口を開いていやらしい笑みをした河西佳苗が見える。河西の肌は黒くなっており、目と口が異常に大きく開いている。
彼女は両手で倖田と思われる全裸の男性を抱えあげている。よく見ると、倖田の手足はなく、その肛門には不自然に河西から生えているありえない黒い陰茎が突き刺さっていた。倖田は苦悶とも恍惚ともつかない表情を浮かべ、これもまた静止している。

悪夢のワンシーンが、そのまま凝結したような空間。
それが私の目の前に広がっている光景だった。

「これ、なんとかなるんかいな」
土御門が、後ろでポツリという。
「見たことない術式ですねえ。興味深い・・・興味深いのです!!」
やたらテンション高く騒ぐ、小柄な女性。土門という占部の術者だと紹介された。

土門は結界に手を触れる。そのまま目を閉じ、ぺろりと唇を舐める。なんだか表情は楽しそうだ。

「いや・・・これ、時間停止って・・・わけじゃないみたい・・・。イケる、いけますよぉおお!」
一人興奮気味に言うと、ニヤリと笑う。私の方を振り返る。
「綾音さん!中・・・入れそうです。行きますか?」
「入れんかいな」
「ええ!」
任せてください、と土門は言う。

入れるなら・・・ダリに会えるなら・・・。
私はもちろん、と頷いた。
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