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天狐あやかし秘譚

第116章 温慈恵和(おんじけいか)


「はい、もちろんです!ダリ様と深い契りを交わしたのは後にも先にも、碧音殿のみ。だからこそわたくしは・・・」
「じゃあ、あんたはなんなのよ?」

一瞬、佐那が小首を傾げるが、ああ、と得心したかのような表情を見せる。

「なるほど!綾音様はわたくしがダリ様の側室か何かであると勘違いなさっておられるのですね!?ご心配召されるな。わたくしがダリ様とまぐわうのは愛ゆえではなく、修養の一環。妖力を補い強めるためでございまして、二心(ふたごころ)などつゆほどもございません!」

ねー?とダリに笑いかけるその笑顔・・・確かに邪気はない。ないのだけれども・・・私の女の直感が、そこに深い深い『愛情』を感じてしまう。

うう・・・なんなの・・・この胸の中がえぐられるような感覚・・・っ

「とにかく!ダリ様・・・朱音殿をお守りするためにも、早く昔のように佐那とまぐわいめされよ!さもなくば手遅れになりまする。」

言いながら佐那が着物の下紐を解こうとする。

「いや、待て、佐那・・・い、今は・・・」
「ちょっと、あんた!勝手なことを!」

そうだ、勝手だ。勝手なのだ。
勝手にうちに上がり込んできて、勝手にダリに抱きついて、勝手にキスをして、勝手に!!!

そう、私はここにきて明確に意識したのだ。
この小さな闖入者、地狐・佐那姫に・・・心から嫉妬しているということを。

カッと頭に血が上るような感触。
佐那をダリから引き離したいというものすごい欲求。

「は・・・離れなさいよ!」

こうして、ダリにしがみつき再びキスをしようとした佐那をひきはなすべく私が手を伸ばした私だったが、その喧騒の中、場違いにのんびりした声が聞こえてきた。

「あのお・・・」

ふわりと桔梗が私たちの真ん中に姿を現す。
そして、彼女は私たちに告げた。

「綿貫亭の外に、敵対的な意思を持った妖魅が・・・溢れかえっているんですけど・・・」
と。
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