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天狐あやかし秘譚

第114章 純情可憐(じゅんじょうかれん)


さ・・・、と立ち上がると手を差し伸べてくれた。
私がどうしていいかわからずに戸惑っていると、

「どうしたんですか?
 私を、帰したくはないのでしょう?」

そう言って、ちょっと今まで見たことがないような、いたずらっぽい顔で笑った。そんな事言われてしまったら、その手を掴むしかない。なんだか意地悪をされてしまったような気がして、ちょっとむーっと睨みつける。

「宝生前さん・・・なんだか、意地悪なのです・・・」

その言葉に返事はなくて、ないままに、私の身体はぐいっと彼に引き上げられる。勢い余って身体が彼の方に倒れ込みそうになるけれども、意外な頼もしさでそれを受け止めてくれた。

あん♡

彼の身体の熱さに触れて、なんだか変な声が出そうになる。かろうじて声は出なかったけれども、多分お顔は真っ赤になっているに違いない。

「おっと・・・やっぱり貴女の身体はずいぶん軽い・・・」
やっぱりって・・・?

私の顔に疑問符が浮かんだのだろう、宝生前はまたにやりと笑った。
「ここまで貴女、自分で歩いてきた・・・とでも?」

その言葉が意味するところを悟って、私は更に顔を赤らめた。

「まさか・・・お姫様抱っこ・・・」
「いや、おんぶです・・・姫は抱っこがご所望でしたか?」

え?ッと思うのよりも早く、私の身体がぐるんと横倒しになって、ふわりと持ち上げられる。

「え・・・?え?え?」

宝生前の顔が間近にあって、天井がその向こうに見えて・・・
それで私はやっと、自分が横抱きにされていることを理解した。

「うそ・・・うそうそ!・・・なのです!!」

そのまま宝生前は私を浴室まで運んでくれる。
ベッドルームの奥、浴室の手前の空間は広くとってあった。二人で並んでもまだ余裕のある大きな鏡が、磨き上げられた洗面台の上にある。そこにはおしゃれなバスケットに入った可愛らしいアメニティが並んでいた。

すとん、と、パウダールームに私は立たされた。

さすがラブホテル。浴室がガラス張りになっている。パウダールームから丸見えになっているのは普通のホテルではありえないような仕様だ。

「えっと・・・お洋服を脱ぐので・・・その、そっちを向いててください」

なんだか急に恥ずかしくなって、私はそう言ってしまった。
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