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天狐あやかし秘譚

第114章 純情可憐(じゅんじょうかれん)


あっけらかんと言い切る宝生前に思わず目が点になる。

「無理やり連れてこられたようでもあるし、
 自分でも来てみたかったようでもある。
 実のところ、私も自分で不思議でならない・・・」
「え・・・っと、その・・・イヤじゃ、ないのですか?」

宝生前の性的指向からして、女性と一つの部屋で密着するなどというのは、嫌なことではないのだろうかと心配になる。

私は、宝生前に嫌われたくない。

でも、私が一生懸命考えて言った言葉に、宝生前自身はプッと吹き出すという反応を見せる。

「いつもと随分違いますね・・・。いつもはこちらの都合などお構い無しに、ぐいぐいと迫ってくるのに・・・」
「いや、それは、いつもはその・・・なんというか・・・絶対に大丈夫っていう感じがするというか・・・」

そうしどろもどろになると、また、宝生前に笑われてしまった。

「お風呂、入れ直してきますから、入ったらいかがですか?
 どうせもう終電もないですし」

宝生前が再びお風呂場に消える。どどどどど・・・と大量のお湯が注ぎ込まれる音が少しだけ漏れ聞こえてきた。

「すぐにいっぱいになると思いますよ」

そう言って、再び宝生前はソファに腰を下ろす。
その顔を見ていたら、とたんに私は不安になってきた。

「いなく・・・ならないですよね?」
「はい?」

心配だったのだ。
私が無事だったことを確認した宝生前が、私がお風呂に入ってる間に帰ってしまうんじゃないかと、そんなふうに考えてしまったのだ。

もし、お風呂から出てきて、お部屋がシンとしていたら。
私は悲しくて、悲しくて、たまらなくなってしまうだろう。

まだ、頭がホワンとしてたせいだと思う。
私は宝生前のガウンの袖をきゅっと掴んだ。

「いっしょに、お風呂に入ってくれなきゃイヤ・・・なのです」

さっきまで、一緒の部屋でイヤじゃないのか、なんて思っていたのに、おかしいって自分でも思う。思うのだが、そうしてほしいのだ。私の視界からいなくならないでほしい。そばにいてほしい。離れないでほしい。

宝生前が、彼を見上げる私の顔を見て、裾を掴む手を見て、また、私のことを見た。
少しだけ、呆れたような、でも、優しい目をしながら息をつくと「わかりました」と言ってくれる。
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