第113章 実事求是 (じつじきゅうぜ)
そう言われたけれど、私はこの言い回しがすっかり気に入ってしまっていた。
だから、『いいのです!私はこれが気に入ったのです』と言ってふふふと笑った。
ふふふ・・・はははは・・・・
そんな私を見て、彼も笑った。
二人は縁側で、笑いあっていた。
嬉しかった。とてもとても、嬉しかった。
きれいな魂の貴方とまた会いたいと、心の底から思っていた。
だから私は彼に手を振って言った
『また会いに来てください・・・宝生前さん・・・!』
これは、昔々の記憶
早春のお家の縁側での優しい出来事・・・
私の心の奥に沈んで、いつもは思い出すことはないけれども、大事な、大事な、私を形作っている記憶だった。
☆☆☆
「わらしはね・・・あなたのそばにいりゅと・・・あんしんするのれす・・・」
突っ伏して、幸せそうな顔で寝息を立てている土門が不意に寝言のように言った。なにか良い夢を見ているのだろうか、ニコニコと笑っていた。私はその額にかかる髪の毛が気になって、少し手を伸ばしかけて、一瞬躊躇して引っ込める。
「うう・・・ん・・・ほうしょうまえさああん・・・」
むにゃむにゃ・・・そんなふうな寝言をまた聞いて、結局はまた手を伸ばしていた。ちょっと汗ばんで、額に張り付いた髪の毛を丁寧にとってやる。
本当に・・・あなたにはかないませんよ・・・
これまで付き合った男性は何人かいた。身体の関係もそれなりに。でも、こんなにも無邪気に、まっすぐに、私を求めてきた人など、覚えがなかった。
なんど、突っぱねても、突っぱねても、めげずに絡んでくる。
まるで離れ得ない強烈な縁で結びつけられているかのような、そんな錯覚すら覚える。
ちらりと時計を見ると、そろそろ終電が出てしまう時刻だった。でも、この状態では一人ではとても帰せない。
はあ・・・
「さ・・・土門様。帰りましょう、ね?」
よっこらしょと彼女の身体を起こす。ぐてーっと力が抜けており、火照った身体はとても重たかった。
「しっかりしてください?タクシーを呼びますか?」
「んにゃ?」
「ほら、立ってください・・・帰りますよ!」
ずるずるとバーチェアから引き下ろすが、足がふらついて全く腰が立たない。しょうがないので、よっこらしょっとおんぶする。バーテンが大丈夫ですかと苦笑して見ていたので、片手を上げて大丈夫だとアピールをした。
