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天狐あやかし秘譚

第113章 実事求是 (じつじきゅうぜ)


『宝生前さん、宝生前さん!ルームサービスでシャンパンがあるのです!』
『いや、仕事中ですから・・・』

ベッドはシモンズの高級品で弾力があり、シーツも一流品と見た。このあたりはさすが京王プラザというべきだろう。ベッドに腰を下ろして、宝生前さんにも横に座るように促してみたが、『いや・・・それは・・・』等と、やんわりと断られてしまう。

ううう・・・歯がゆい・・・っ!

結局、夜魂蝶が江藤の動きを感知するまでは『待ち』なわけである。実は、先程の占術で、おそらく今夜にでも私達の仮説を裏付ける動きがあるだろう、というあたりはついていたものの、実際に事が起こるのが何時かまではわからないのである。

と、いうわけで時間が空いているのだ。本来ならこの間、楽しくおしゃべりをしたり、何なら少しくらいエッチなことも・・・と期待してもいたのだが、宝生前は何やら専門書めいた書物をいつものアタッシュケースから取り出し、ソファに座って読み出してしまった。

彼が座っているのは一人用のソファだ。あれではお隣りに座ることもできない。

仕方がないので私は、読書にふける宝生前の横顔をじっと眺めて過ごすことにした。ちなみに、そんな私の横に、菊理媛がちょこんと座っていた。

宝生前の横顔を眺めながら、心の中で、私は隣に座っている菊理媛に話しかけていた。

ねえ・・・、菊理媛さま
見てほしいのです。あれが私の好きな人、なのです。
すごく、すごく、かっこいいのです。

痩せ型の顔に一重のまぶた
無精髭なんかも全然ない
お肌の手入れなんかもちゃんとしているみたいで、男の人の割にはきれいなのです
黒髪に少しだけ銀色の筋が混じっているのは年相応
髪型もバッチリ決まっていて、とっても知性的でダンディなのです・・・

専門書の文字をゆっくりと追う視線
窓辺の光に照らされる横顔
時折、首を傾げたり、考え込むときに手が口元に行く仕草がなんともセクシー
いつまでも、いつまでも、見ていたくなるのです・・・

ね?素敵でしょ?

ほう、とため息が出る。

『あ・・・あの・・・?』
宝生前が私の視線に気づいたのか、声を上げた。見つめすぎてしまったようだった。一瞬、部屋の中に緊張感にも似た雰囲気が流れる。

『宝生前さんは・・・素敵なのです』
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