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天狐あやかし秘譚

第113章 実事求是 (じつじきゅうぜ)


口から本音が漏れてしまう。昔から私はそうだった。
自分の思いをちゃんと伝える、それが信条だったし、そもそも、考えたことはそのまま口から出てしまうことが多かった。

そんな私の言葉に、宝生前が面食らったように口元に手をやる。若干耳が赤くなっているのは、多分、私の贔屓目ではないはずだ。

一言、言葉が漏れると、つぎつぎと私の口は心の中の思いを紡ぎ出していってしまう。今は仕事中だから・・・と少しの理性が止めようとしている気もしたが、その力よりも遥かに強い想いが溢れてきてしまう。

『さっきも、色々とフォローしてくれて、うれしかったのです』
『貴方と一緒にお仕事ができて、こうして一緒にいられて、私は幸せ・・・なのです』
『私はあなたのことが・・・』

座っていたベッドから腰が浮きかける。
その時、私の霊覚が夜魂蝶の動きを敏感に感じ取った。

『あ・・・っ!』
少し上の方を見たからだろうか、私の動きから宝生前も事態を察したらしい。私は素早く夜魂蝶の視覚に、自身のそれをチューニングした。するとたちまちのうちに、私の脳内に夜魂蝶の見ている光景が投影される。どうやら、夜魂蝶は江藤の部屋の扉が開いたのを検知したようだった。

『土門様?』
扉からは黒のスラックスに黒のワイシャツ、そしてラフな黒ジャケットという黒尽くめの姿をした男が一人、出てきていた。髪型はヘアワックスで毛先を遊ばせる感じにしており、少し茶色がかったメガネを掛けていた。
変装をしているようだが、夜魂蝶を騙すことはできない。蝶が感じる魂の気配は明らかに江藤二重のものだった。

『江藤が、部屋を出たのです・・・ちょっと、格好を変えていて・・・』
口で服装を説明しようとしたが、どう言ったらいいのかわからない。ええい、ここはしょうがない・・・と思ってくださいね、宝生前さん!

『え?ど、土門様・・・?!』

私はおもむろに宝生前に近づくと、自分の頬を彼のそれにピタッとくっつけた。チークダンスもかくやというほどの接近である。彼の体臭を強く感じてしまい、一瞬どきりとしてしまうが、努めて平静なふりをする。

『しっ!夜魂蝶の視覚を共有するのです!』
『私は言葉で言っていただければ・・・』

そんな宝生前の抗議の言葉を無視し、ついでに手も握っちゃったりなんかして、私は小声で視覚共有のための呪言を唱えた。
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